＋＋＋5th.　Discovery「星の牧場」

サイドストーリー　＜Love thy neighbor＞

　

　

　

　「あ、尚樹ク〜〜ンッ」

　マミーズのカウンターに座る尚樹クンを見つけ、お店の中だというのに思わず大声で呼んでしまった。あっちゃ〜、やっちゃった〜〜。

お店の中で大声で名前呼ばれるのは恥ずかしいって、友達に言われている事を思い出した。

　けれど、尚樹クンは別に驚いた様子もなく、ニッコリ微笑みながら手を振ってくれた。良かった〜。

　しかも相変わらず素敵な笑顔が見れて、ちょっぴし得をした気分になる。尚樹クンって本当に笑顔が素敵だ。まるでモデルさんとか芸能人みたいに、すっごく綺麗に微笑む上に、羨ましいくらい美人さんなものだからつい見とれてしまう。

　とことこと隣までいくと、椅子を座りやすいようにちょっと引いてくれた。紳士だな〜。

「エヘヘ、ありがと♪」

　席につくと、奈々子サンがお水を持ってきてくれた。早速一気に飲み干す。食道に冷たい水が流れてゆくのがわかる。その感覚が、部活を終えて火照った身体にはなんとも気持ちが良かった。

　

「っは〜〜ッ、キクゥ〜〜ッ」

「おお〜」

　パチパチパチと尚樹クンと奈々子サンが拍手している。

「相変わらず見事な飲みっぷりですねぇ〜」

　感心しながら、カラになったコップに水を入れてくれた。調子に乗ってもう一杯いこうと思ったけれど、それは尚樹クンに止められた。

「あはは、それ以上飲むとお腹タプタプになるよ〜」

「へへーん、これくらい平気だもーん」

「おや、残念。せっかくおごろうと思ったのにな〜。あまり食べられななっちゃうかな？」

「ええッ、ホントにおごってくれるのッ！」

「ええ、何でも好きな物をどうぞ。オマケにデザートもつけちゃう」

「やった〜♪でも、本当にいいの〜？」

「もっちろん。明日香にはお世話になってますから。それに‥」

　小さな声でひっそり耳打ちされる。　

　

「ゆうべも明日香のおかげで、無事クエストをこなせたんだから」

　

　満面の笑みを浮かべる尚樹クン。

「エヘヘッ‥」

　あたしとまだ一部の人しか知らない尚樹クンの秘密。

　思わず皆に自慢したくなっちゃうけど‥頑張って我慢している。

（最初の頃うっかり皆守クンにバラしてしまったという事実はゴミ箱にポイ）

　しかも、最近一緒に探索しまくっているおかげで、尚樹クンの過去の話とか知る事が出来るし、どんどん親密度はアップしている。この学園で皆守クンを除けば、あたしが一番仲がいいハズ！！‥‥って、あれ？いつも一緒にいる皆守クンがいない。今日は一緒じゃないのかな。なんでだろ？

「ご注文はお決まりになりましたか〜？」

「えっとね〜、ハンバーガー２つに〜飲み物はコーラでしょ〜〜え〜と‥」

「あ、一緒にチョコレートパフェ食べない？」

　うんうん、運動で疲れた身体には甘い物が良いっていうし。

「食〜べる〜〜ッ」

「あはは、良かった〜。さすがに一人じゃ頼みづらくってね」

　そうなのだ、尚樹クンってば結構甘い物が好きだったりするのだ。なのでよく一緒に甘い物を食べている。

「へへ〜、そーいう時はいつでも誘ってね」

「よろしく〜」

　あははっと笑いあう。

「では、ご注文を確認させて頂きます。ハンバーガーが２つにミックスサンド、飲み物はコーラで、食後にチョコパフェが２つですね」

「はーい、あってまーす♪」

「かしこまりました〜」

　え〜〜っと、そういえばさっきは尚樹クンに何を聞こうとしたんだっけ？

　

「お、九龍〜。今日は旦那さん一緒じゃないのか？」

　

　ブッ！？

　

　クラスの男子達の台詞に、まるでコントみたいに飲んでいた紅茶にむせる尚樹クン。

「ゴホッ‥‥ゴホッ‥‥オイッ‥‥」

「ちょ‥大丈夫〜」

　咳き込む尚樹クンの背中をさすってあげる。

　声を掛けてきた男子は、そんな尚樹クンの反応をニヤニヤと面白がっていた。

「ちょっと〜〜、それを言うなら奥さんじゃないの〜〜」

「え‥‥皆守に‥‥‥‥‥」

「似合わないだろ‥‥」

　

「あ‥そっか、皆守クンの事か‥‥うーん、たしかに旦那さんかも」

　２人が一緒にいるところを想像して、妙に納得してしまった。

　

「明日香〜〜〜〜〜〜」

　恨めしそうな尚樹クンの声で我に返る。

「あっはは〜ゴメ〜〜ン♪」

「ったく‥‥、何が悲しくてアイツと夫婦扱いされるんだよ〜〜。いまさっき俺に言った事、アイツにも言ってみろよな〜」

「あっはっは〜、俺命が惜しいもん」

「言ったら殺されるってかマジ半殺しだろーな」

「お前だから言える台詞だっての」

「はっは〜確信犯かよこんちくしょうッ」

　店内に溢れる笑い声。最近、クラスの男子は皆守クンがいない時に、こうして尚樹クンをからかって遊んでいた。男子の気持ちも分から

なくもない。普段いつもニコニコ微笑んでいて、余裕すら感じさせる尚樹クンがあわてふためく姿（これがまた良い反応するんだ）って‥貴重というかなんというか‥‥うーん。あ、そうだ、例えるなら大好きな人の普段とは違った一面を見たいって思うのと同じかな。

　他の人が知らない、その人の一面を自分は知ってるぞって、なんか優越感を感じちゃう。なんか自分は特別なんだって思えちゃう。

　そういえば、茂美チャンの件で一緒に探索した時、普段の尚樹クンからは想像できないような過去を知る事が出来た。

　ひとりだけで遺跡の先へ行かれてしまった時は、信頼されてないのかなって‥悲しくなっちゃった。扉を開かなくされてしまった時は、一緒にいた皆守クンも悲しかったと思う。だって、ものすごく恐い顔して、扉を蹴り破っちゃったんだもの。あんな感情的な皆守クンなんて初めて見た。

　追い掛けていって理由を問いただしたら、あたしたちに嫌われたくなかったからって‥‥。そんなふうに思って貰えてるって分かってすっごくすっごく嬉しかった。

　取手クンに椎名サンに茂美チャン‥。既に３人もの人の心を救っている尚樹クン。優雅に微笑み、悩み事なんて無いような‥あったとし

ても自分ですべて解決してしまえる強さを持っていそうな尚樹クンだって、心に抱えてる、苦しい事や辛い事があるんだよね。

　

　

　あたしは尚樹クンの為に、もっと何かできないかな？

　

　

　そうだ、リンジン倶楽部っていったっけ。なんかそれにいけば穏やかな気分になれるって噂があった。よっし、今度いってみて良かったら尚樹クンも誘ってみよう。

　

　

　

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