＋＋＋4th.　Discovery「明日への追跡」

サイドストーリー　＜カレーパンと少年Ａ〜買い占め伝説へ＞

　

　

「うわっちゃ〜やっぱり出遅れか〜」

　昼休みの売店‥今日は一際混雑しているようだった。

　今日は何故か、無性にカレーパンが食べたくなって売店まできたのだが、出遅れてしまった。果たして無事に購入できるか諦めかけていると‥

「九龍じゃないか〜」

　やぁ、と綺麗に笑うクラスメートの《転校生》。

　カッコいいといよりも、むしろ綺麗といった例えがピッタリなルックス。そしていつも、木漏れ日のように柔らかに微笑む九龍は、女子たちの受けもいい。嫌みも無く、人当たりも良いので、同性の俺から見ても好感がもてた。

　そんな九龍は、成績は良いくせに授業中ノートをとるのが苦手なんだとかで、よくノートを貸している。

　すると必ずといっていい程ご馳走してくれる紅茶。それも、２０パック２９８円とかで売ってるようなのじゃなくて、缶入りの気合い入ったヤツ。流れるような手付きで入れてくれる紅茶は凄く旨かった。

　『ギブ アンド テイク』とは言うものの、ノートを貸しただけであれだけもてなしてくれると嬉しくなってしまい、ついつい貸してしまう。

　非常に良いやつなんだが‥‥ただちょっと、命知らずなよーな気がする。

　ってーか、すげぇよ。あの昼寝の帝王、冷酷無比な蹴りの達人である皆守をおちょくれるのはお前だけだよ。

　よく頭をグリグリされたり、足蹴にされてたりするけどなんか微笑ましいぞッ。

　

「なぁ、そんなナマ温かい視線‥まるで、無邪気なお子さまに弄ばれるネコに送るよーな視線を送られると、切なくなっちゃうんデスケド？」

　

　しまった‥。うっかり、授業の合間の出来事‥皆守に潰される姿を回想しちゃってたよ！

「あッ、あははーッ、気のせいだって♪」

「ふーーーーん、じゃ‥そろそろ行こう」

　少々憮然としながらも人ゴミの中に分け入っていく。

　要領がいいのかそれとも身体能力のせいか、うまい具合に進んでゆく。それに置いていかれないようについていく。

「なぁ、今日は何を買うつもりなんだ？」

「ん‥ああ、なんかカレーパンがすっげぇ食いたい気分だからカレーパンだよ」

「あー、確かにカレーパンってなんか時々ものすごく食いたくなるかも‥‥俺達一般人はな」

　何か含んだ言い方にある人物を思い出してしまう。

「そういう九龍は何を買うつもりなんだ？」

「俺？ああ、俺もカレーパンだよ。皆守が腹減ったってーか、むしろ買ってこいっていってるようなメールがきちゃったんでね」

　苦笑する九龍。

　ほんと仲がいいんだよな。今まで人と進んで接することが無かったクラスメートが、この《転校生》とはよくツルんでいるようだった。

　性格に難があるとはいえ、同性からみても十分カッコいい皆守と、九龍が並んじゃったりするとなんか話し掛けづらい。八千穂あたりは、気兼ねなく話し掛けているけど俺には無理。九龍とはそれなりに交流してるけど、一番仲が良いのはやっぱり皆守だろう。

　なんか少しモヤッとして、つい言ってしまった‥‥

　

「大変だねぇ奥さんは」

　

　いやッ！なんてーかほら、九龍って綺麗ってかぶっちゃけ美人？なもんだから、皆守と並ぶとぉ〜〜ッ

「あっはっはー、嫌だなぁ〜」

　なんかすっごい笑顔なんだけど、微妙に周りの温度が２度は下がった気がしないでもない。

　売店窓口に辿り着くと‥

「ねぇ、イカしたナイスミドル」

　境のジジィに満面の笑みを浮かべる九龍。

「ホッホッ、なんじゃい小僧」

「カレーパン全部ちょーだいッ♪」

「なにぃッ！？」

　なッ！買い占めかよ〜〜〜ッ！！

　九龍は懐から何かを出し、それをスケベジジィにチラリと見せる。

「いやね、こういうものが手に入っちゃったんだけど〜俺はいらないんだよね〜、でもせっかくもらったものを捨てるのは嫌だし〜喜んでくれる人にあげよっかなーなんて‥‥ねぇ？」

　なんちゅーか、こういうのを悪魔の微笑みってー言うんじゃないか？

「むっひょーーーッ！！！そ‥そそそそッそれはッ！！！！おッお宝ッ！！」

　鼻息荒く大興奮するジジィ。何なに？？九龍〜なんだよそれはぁ〜〜ッ！

　ザカザカとビニール袋に、その場にあったすべてのカレーパンを詰めると九龍に渡した。まッ‥マジかよ！？

「サンキュー」

　袋を受け取ると脱兎のごとく、爽やかに去っていく。

「ちょッ‥、く‥‥‥九龍〜〜〜〜〜ッ！！」

　俺には九龍の後ろ姿を目で追うのが精一杯だった。　

　

　

「あ〜あ、カレーパン買いそこなっちまった‥‥」

　仕方なく焼きそばパンを買った俺は、とぼとぼ教室へ戻る。

　なんか食いたいものが手に入らないと、余計に食いたくなるのが人間だよなぁ。

「くぅ‥‥恐るべし九龍」

　あいつもやっぱり怒らせたらヤバイやつなのか‥‥。

　しょんぼりと席につくと、机の上に透明なビニール袋に入り、こんがりキツネ色に揚げられた、今ものすごく体が欲しているものがあることに気がつく。

　

『ＥＡＴ　ＭＥ』

　ビニールに張られた付せんに書かれた文字は九龍のもので‥。

　なんとなく、昔読まされた「不思議の国のアリス」の一節を思い出す。

「私を食べてって‥‥、可愛すぎるぞ」

　

「仕方ない、午後の授業も真面目にノートとっといてやるか」

　

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