＋＋＋4th.　Discovery「明日への追跡」

オチ　化人創世の間＜心の天秤、自己の平行＞

　

　

　

　「すっごーい、カレーパンがいっぱーいッ」

　心底感心する八千穂。いや‥まーその、いろいろあってね。ははは‥

　

　　先程、自分の事を思いっきりカミングアウトしてしまったら、涙が出てきちゃったりなんかして、とても探索どころではなくなってしまったのだ。

　なので丁度いい具合にあった魂の井戸を使い、自室から夜食を取り寄せて、小休止することにしたのだった。

　まだ、いくぶん目の周りは赤いが、普段の元気いっぱいの八千穂に戻っていた。

「ねぇねぇ、カレーパンってすっごく人気なのにどーやったらこんなに買えるの？」

　さっそく袋を開け、パクつきながら聞いてくる。

「あー‥それ、それは〜〜蛇の道は蛇ってヤツ？」

「え〜なによそれ〜〜」

　い‥‥言えないッ！まさか境のスケベジジィにワイロを渡したなんてッ。それも渡したモノがアレなものなので、女性の八千穂になんて素直に言っちゃったりしたら軽蔑されかねない。　

　そう‥実はクエストの報酬として貰った『お宝写真』をあげたのだ。いや、そのだってね、確かにマニア垂涎の的ともいえるものすっげー写真なんだけど、こういうものを自室に置けない性分なのですよ。はい。

　せっかくあの子から貰ったものだし、捨てたり売ったりするなんて嫌で、その処遇に困っていた俺は、一番喜んでくれそーなヤツにあげる事にしたのだ。ま、そー思ってこっそりと持ち歩いていたんだけれど、上手い具合に使う機会に恵まれたとゆーわけなんですよ。

「確かに昼にメールしたんだが、まさかこんなにも気合い入れて買ってくれてたのか？九龍」

「‥‥んなッ！？」

　なんだよッ。そのニマニマした、しまりのない表情はッ！まるで、俺の為にとでも副音で入ってそーな台詞‥‥。くッ‥お前なーー‥‥‥‥ッ！

　

「なになに？どーいう事なの尚樹クンッ」

「違げーよ。ちょっとクラスメートにからかわれてだなぁ、ムカついたから買い占めとゆー大人気ない行為をしたくなったんだよッ」

　ほんの少しだが顔が上気している気がした。なんだよ‥さっき人前で泣いたせいか？なんッか、調子狂うなー。いつもの俺は何処へ行った？

「ほー、どうからかわれたんだ？」

　うっわ、なんかムカつく。なにその余裕の表情は？なんだよ、なんだよッ、俺劣勢っぽいじゃん。クッ、俺はお前の所為でからかわれたってのに。

　

「あのなッ、俺がお前のお‥‥‥‥ッ！？」

　

　慌てて次へと続く単語を飲み込む。まさか『奥さん』だと言われたなんて、口が裂けても言えないッ！！っちゅーか言いたく無いッ！！

カレー星人のことだ、思いっきりバカにしくさるか、罵られるか‥‥どちらにせよ嫌な選択肢だった。

　あー、もうマジ調子狂う。いつもなら笑って余裕で対処できる冗談なのに‥。ジトッと睨みつけてやる。

「なんだよ？」

　カレーパンを平らげて、ペロリを指を舐めるカレー星人。あーそうそう、お前はそーやってカレーでも大人しく食ってりゃいいんだよ。れっきとした地球人の俺に関わらないでくれッ。

「ね〜『お』の次は〜？？」

　ああ、そんな純真な目で俺を見ないでッ。

「あッ、喉乾いたろ。これ千貫さんから貰ったんだ〜」

「わぁ〜ありがとうッ」

　すかさずミルクを渡して気を反らす。

「‥‥‥‥‥誤魔化しやがったな」

　なんかカレー星人が言った気がしたが、聞こえないフリをしてカレーパンにかじりついた。

　

　

　

「さぁ〜て、そろそろ行くか‥」

　小休止したおかげで、多少は気持ち的に落ち着いた気がした。気がするだけというか、そう思いたかった。

　なんとか気持ちを切り替え、五百津真賢木の錠を解除するための秘宝を手に入れた。目の前の重厚な扉は、天照大御神が隠った岩屋戸を連想させる。

　

「‥‥はぁ」

　今日の俺は本当にどうかしている。

　

　人前で泣くという醜態に、受け流せない冗談。あーもー、すっげぇ恥ずかしい。俺も天照大御神のように隠りたいよ‥。

「どうした？溜め息なんてついて。怖じ気付いたか？」

　くそーッ、こっそりついた溜め息にまで勘付かれるとはッ！！

「さぁねッ」

　少々乱暴に秘宝を錠に詰め込んでしまった。

　解放された扉を進むと、突然後方に壁が出現する。

「退路を断たれたな‥」

　

「オーホホホホホッ！！」

　ホールに響き渡る無気味な高笑い。

　目の前にはオカマ‥じゃなかった、《生徒会執行委員》朱堂が居た。

「若い男を夢中にさせるなんて、アタシって、罪なオカマ‥‥‥」

　

　‥‥‥‥‥っはぁ。

　コイツを追って遺跡に潜るまではよかったんだよな‥。

　遺跡に入ってからは‥‥‥ッ。頭の中で密やかに、思い出す事を拒否していた出来事がフラッシュバックする。

　つい泣いてしまった時に、涙を拭った温かい指の持ち主は皆守だったという事を。

　あーそーだよ、俺の調子が狂ったのもアレの所為だよこんちくしょうッ！なんつー恥ずかしい事をしてくれたんだ。そーいう事はな、子供か恋人にでもやっとけ。

　思わず情けなさと恥ずかしさでウルっときてしまった。

「あんッ、潤んだ瞳を見ると、ゾクゾクしちゃうわ‥‥」

　いや、俺は別の意味でゾクゾクしちゃいました。

　朱堂が《生徒会執行委員》なのは、見当がついていた事とはいえ、なぜ女生徒を見張るのかが分からなかった。オカマなだけにヤバイ趣味とも思えない。

　俺の疑問を代弁するかのごとく、皆守が朱堂に尋ねるが‥‥‥。

　

「焦っちゃイ・ヤ」

　

　ガッ！

　

　朱堂の腕が動いたかと思うと、ダーツが俺の頬を掠め、後方のレリーフに突き刺さった。

「なッ！？」

　動けなかった‥‥。

　呆然とする俺を満足気に見ると、またもや腕が動いた。

　

　ガッ！！

　

「嘘‥矢の上に刺さってる‥」

　狙った的を百発百中で射抜く《力》というのは嘘ではないらしい。

　ヤバイな‥アサルトベストの下に、防御性の高いケプラーアーマーを着込んでいるとはいえ、こいつらの攻撃には特殊な力が宿っているのか、すさまじい攻撃力を誇る。もし、あのダーツの矢を直接心臓の上にでも食らったら‥‥背筋に走る悪寒。

　

「さぁ、始めましょう！！」

　朱堂の高らかな開幕宣言で始まった。

　

　

　ガスＨＧで早々に雑魚を片付けると、射程の長いＡ３Ｇ３ライフルで距離をとりつつ朱堂を攻撃する。

「おぐぉおおおおおッ」

　なんとも漢（オトコ）らしい、低い声が響き渡る。遺跡に逃げ込まれる前もそうだったが、普段はオカマ言葉なくせに、地はムチャクチャ男らしい。

　なんとなく狙いやすい顔面を撃ったのだが、見事に弱点だった。近付かれる前にケリをつけたかったので、そのまま連射する。

　カチンッ

「チッ‥弾切れかッ」

　すぐにリロードするが、ここぞとばかりに朱堂がズンズン近付いてくる。

「オーホホホホッ！今度はアタシの番よ〜ッ」

　距離をとるが、奴の方が早いッ。

「アナタのハートを狙い撃ち〜〜ッ！」

　その叫び通り、俺の胸へとダーツが直撃する。

　ガッ‥

　あまりの衝撃に呼吸が止まる。マズイ‥ッ、距離をとろうとしたが身体が反応しない。

「さぁ、アタシの愛を受け止めて〜〜ッ」

　朱堂の２撃目が放たれる。冗談キツイぜ、こんなの連続で食らったら‥‥ッ。恐ろしい考えが脳裏をよぎったが、元気のいい声が俺の不安を拭い去る。

「ええぃッ！！」

　ラケットに弾かれたダーツの矢が、勢いよく朱堂の顔面に刺さる。ブシューとまるで噴水のように血が吹き出す。

「な‥‥なにすんじゃぁああ！！」

「へへーんだ。テニス部のアタシの実力、見たかッ！！」

　得意気にキメられたポーズが、ものすごく輝いて見える。

「ナーイス八千穂ッ！！」

　ダメージが回復した俺は、容赦無くってか遠慮なく鉛のシャワーをお見舞いしてやった。サンキュー、八千穂。今日の俺は、心身共にお前に助けられてるよ。

　皆守を、俺の心の平穏を乱すアロマカレー星人とするならば（あ、まんまか‥）、お前は心のオアシスだッ。

　波に乗った八千穂に、朱堂の攻撃を弾いてもらいながら銃を連射し続けた。そして、程よくヤツが弱ってきたところを、ボウガンで止めを刺す。のほほ。

「ああん‥‥‥、か、身体が‥‥。燃えるぅぅぅゥウウウッ！！」

　朱堂から立ち上る《黒い砂》が、巨大な化人の姿を創り出す。

　巨大な魚のシルエットに、太陽と女の顔とが融合したソイツと対峙する。以前戦った伊邪那岐（イザナギ）とは明らかに格が違う‥。

　

　神々しいとさえ錯角してしまうソイツのプレッシャーに圧倒されそうになる。

　

「九龍‥‥、おい、大丈夫か？キズが痛むんじゃ‥」

「ああ、ヤバイな‥」

「お前ッ！」

「こんな状態で、あんな凄い敵に勝っちまったらカッコよくない？」

　思わず口から出てしまった軽口だが‥‥。

「あー、アロマが旨いぜ」

「‥‥って！？シカトかよッ！！」

　こんな状態だというのに、マジで裏拳でツッコミたくなる。

「ほら、なんかコブラみたいなのが来たぞ」

　くぉおお、ム‥ムカツク〜〜ッ。

　とりあえず、ライフルから鉛の弾を打ち出す。だが、先程の巨大サソリよりも体力がある上に、弱点が背中の模様なので、こちらへ向かってくるヤツらには効きづらい。

　こんなのに煩わされる時間は無い。

「八千穂頼むッ！！」

「まっかせて〜〜ッ！いっくよーッ」

　今日の八千穂はマジで頼もしい‥‥‥。

　なんとか蛇共を一掃すると、ライフルにてボスの弱点を探す。

　一発づつ試してゆく‥

　辺りに響くけたたましい悲鳴。弱点は、あの魚のような尻尾だった。左右に動き回る尻尾は狙いづらかったが、連射してダメージを稼ぐ。だが、やはり相当体力があるようで、空間を泳ぐように、やつが近付いてくる。

　だが、この縦に長いホールでは逃げ回る事など出来ない。ついに射程範囲に入ってしまい、攻撃を食らうが‥。

「くッ‥‥目がッ！？」

　急に暗くなった視界。マジかッ！やつの攻撃には失明効果もあったのだ。敵の位置はだいたい分かっていたが、戦闘中に目が見えないという致命的な状態に動揺してしまい上手くライフルを固定する事が出来ない。気持ちだけが焦ってゆく。

「あ〜眠ぃ」

「うわッ！？」

　いつものように背中に皆守が寄りかかってきたので、ガクリを膝をついてしまう。

「あ〜悪ぃ‥‥ん？おい九龍、目を押さえて‥どうしたんだよ？」

「まったくもって全然見えなんだわ‥これが」

　ふっと、背中の重さが消えるとライフルを掴まれる。

「あッ、おいッ！？」

「とっとと構えろよ、俺が肩を貸してやる」

「ちょッ‥待てよ、危な‥」

「四の五の言ってる間はないだろ。お前は奴の尾っぽを狙ってたな‥この今の体勢なら、真直ぐ撃てばだいたい当たるだろ」

　情けない話だが、おそらく銃を腕で固定してくれているのだろう。非常に安定感があった。

　

「‥‥すまない」

　

「ふん、感謝しろよ」

　

　再び銃での攻撃を再開した。

　途中で弾が切れたが、昔の厳しい訓練のおかげで、目が見えなくとも難無くリロードはする事ができる。

　途中何度か、皆守が寝たせいでよろけてしまったが、不思議と攻撃を食らうことなく撃破することができた。それも皆守のおかげなんだろう‥こいつが寄り掛かったりする時は大抵といっていい程、敵からの攻撃を避けている。

　偶然にしては出来過ぎなんだけど‥ね。

　断末魔とH.A.N.Tが奴を倒した事を告げる。

　今頃になってようやく、視界が回復してきた。ったく、遅いっての。

　目に温かい光を感じる。なんとか目を凝らすと、光の中から小さな‥『コンパクト』が現れた。あれが‥あれが、朱堂にとっての《宝》−。

　

「そッ、それは‥‥‥。そのコンパクトは、アタシが初めて買ったコンパクト‥‥。何ッ！？この気持ち‥‥。何なのッ！？ずっと忘れていたこの湧き上がる感情は−ッ！？」

　

　その後は、朱堂の話を聞き、やつも俺を手伝ってくれることになった。んで、やつのオカマとしての‥美を追求するものの熱い叫びに感銘を受けてしまった俺と八千穂は、朱堂を痴漢の犯人として公衆の面前に突き出す事はやめにした。

　そう‥ここまでは良い話で終わるはずだった。

　

　しかし‥‥。

　

「あ、ゴメンなさい、九龍ちゃんにぶつかっちゃって。シゲミったらドジッ子さん」

「おいッ、朱堂。お前の学ランから何か落ちたぞ？」

　ん？‥‥‥って、おわぁああああッ！？

　なんと、朱堂が落っことしたソレは、女子寮を隠し撮りしたものだった。しかもよく見て‥いやッ、うっかり目に入ってしまったものの中には八千穂のまでッ！？

　おい、これはどーいうことかな？

　ちゃっちゃと写真を拾い、逃げようとする朱堂を呼び止めようとするが、八千穂の方が早かった。

「ちょっと、待たんかいッ」

　見事に奴の顔面にめり込む八千穂の拳‥‥‥‥‥‥‥‥。

　

　

　その後の展開は、俺にはあまりにも凄惨すぎる場面で‥思わず後退してしまった。

　

　

「あぎゃァアアアアアアアアアアアアアアアアッ！！」

　秋の夜空に響き渡る無気味なオカマの叫び声。

　

　

　ここで終わっとけ！！

　

　

　

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