＋＋＋4th.　Discovery「明日への追跡」

こーなって　地下遺跡　三貴子の紀＜銃とナイフ＞

　

　

　

　支度を終えた俺は、《覗き魔》をやっつけると意気込む八千穂と、皆守の待つ墓地へと移動する。

　遺跡の大広間へ降りると、北北西の扉が開くようになっていた‥まさか‥。

　執行委員‥なのか、あいつは‥。気を引き締めないといけないな。

　

　『敵影確認−』

　抑揚の無いH.A.N.Tの警戒音が響く。巨大な正方形の部屋にソイツは居た‥。

　まず一番近くにいた巨大なサソリにＧ３Ａ３ライフルをお見舞いする。こいつは皆守の助言に従って頭部を狙ったら２発で仕留めることが出来た。

　お次は大男。両腕には、大きすぎる白いカタマリが付いていた。おぞましいのは、その白いカタマリにはビッシリと人の‥まるで苦悩し叫びをあげるかのような顔が張り付いていたからだ。

　しかし、その巨大な腕で攻撃されればただでは済まない。比較的行動は遅いので、近付かれる前に撃破するに限る。

　目立つ腕に発砲すると、丁度弱点だったらしい。何発か打ち込むが、両腕の全体が弱点だということが分かる。先程のサソリとは違って的が大きいので非常に楽だ。

　射程の長いライフルを連射し、近付かれる前に全てを撃破する。

　だが、調子が良かったのもここまでだった。

　残った敵は非常に人間っぽかった。

　長い黒髪を結った白塗りの女性タイプの敵。腕は長く、ムチのようになっていたし、両肩に生えた大剣とか、人としてはありえない姿だった。けれど、その姿は人間に見えたし、顔はまぎれも無く女性だった。

「クソッ‥‥」

　躊躇すれば、俺はともかくバディを危険にさらしてしまう。

　接近される前にライフルを打ち込む‥‥が。

「効かないッ！？」

　顔面、大剣、ムチのような腕‥弱点も分からない。空しく中を舞う空薬莢。クソッ‥連射するが全然効いていない。どんどんと距離が縮まってくる。

「ッシャァアアアアア！！」

　ムチのような腕がしなる。間一髪避けるが、俺の頬を掠めると、後ろの壁を削る。いままでの敵よりもランクアップしてやがる。あんなの食らったらマジでヤバイ。

「九龍クンッ！！」

　苦戦する俺を見兼ねて、八千穂がスマッシュを打とうとするのが見えた。

「駄目だッ！」

　声を振り絞って叫んでいた。

　八千穂のスマッシュは【射撃】属性に分類されるということが、一緒に潜るうちにわかってきた。だから、このライフルが全く効かない敵には効果が無い。

「コイツにスマッシュは効かない！だから‥」

　言葉が途中で強制的に遮られる。

「九龍ッ！！」

「九龍クンッ！！」

　グッ‥‥‥‥！？２体目の攻撃が俺の腹にヒットする。途端、口に広がる鉄の味。

「‥‥‥カハッ」

　両サイドの敵に挟まれる形になってしまう。

「‥‥ッハァ‥‥二人とも‥通路の方へ逃げろッ！！」

　声を振り絞る。

　

「オイッ、お前も早く来いッ！」

　イライラした皆守の声‥。

　まさか、行けるわけがないだろ。お前たちが無事逃げられるように時間稼ぎするんだよ。ま、囲まれた俺は嫌でもそうならざるをえないけどなッ。

　次の攻撃が来る前にガスＨＧを投げる。

「ッギャァアア！」

　耳障りな悲鳴‥【火炎】には弱いみたいだが、それだけでは倒しきれない。

　使いたくはなかったんだけどな‥

　コンバットナイフを抜き放つと、火炎で苦しむ１体との距離を一気に縮め、むき出しの腹に突き立て、思いっきり引き裂く。

　どうやら打撃には非常に弱いらしい。ある程度ダメージを与えていた敵は一撃で消滅する。だが、リアルに伝わる肉の感触‥ックッソ！！

「まず１匹ッ！」

　手に伝わる怖気を吹き飛ばすために声をあげる。

「次ッ！」

　嫌な予感にかられて、その場から飛び退く。

　

ゴッ‥‥

　

　

　鈍い音が今まで居た場所を抉り取る。体を半天させ、もう１体との距離を縮める。できれば第２撃が来る前に仕留めたいが、間に合わない。

　敵は反対の腕を、まっすぐ俺へを伸ばす。

　俺は避けずに左の腕でガード。

「ッ‥‥‥‥‥！」

　激痛が走るがそんなのにはかまってられない。腕に刺さるムチを掴むと、それを思いっきり引き、体制を崩す。敵はよろけるが、もう片方の腕で攻撃しようと振りかぶる。

「ギィイイイ！！」

　ナイフを肩の付け根に刺し、抉って肩を破壊する。

「‥‥ッ、煩いんだよッ！！」

　手に伝わる感触、悲鳴‥‥どれもが不快だった。

　引き抜いたナイフで喉を斬り付ける。途端に漏れ出す空気の音‥。

　すまない‥。

　左乳房の下、ろっ骨の隙間からナイフを差し込む。人であれば、苦しませずに逝かせることができるらしい急所。

　

『敵影消滅しました』

　

　ここの敵はいいな‥顔に付いた血糊さえキレイに消えてなくなる。

「はぁ‥‥」

　力が抜け、その場にへたり込んでしまう。

「九龍クンッ！！」

　駆け寄ってくる八千穂。

「だい‥じょうぶ？顔色悪いよ‥その怪我のせい？」

「平気ってなワケにはいかないけど、だいじょ‥‥ッ！？」

「キャッ！皆守クンッ」

　皆守に襟首を捕まえられ、無理矢理顔を上げさせられる。その顔はいつになく真剣で、奴から発せられる怒気を痛いくらい感じたので、抗議の言葉は俺の喉で止まってしまった。

「お前は何で逃げなかったんだよッ！」

　そりゃ、逃げられる状態じゃなかったからね‥。

「ん‥その、倒せない相手じゃなかったんだ。ただ‥この方法はやりたく無かっただけで‥さ」

　子供をあやすように、優しく諭す。

「じゃーなんで俺たちだけ逃がした？」

　怒気はまだおさまらない。

「ちょっと、皆守クン！九龍クン、ケガしてるんだからぁ！」

　止めに入る八千穂。ありがとう‥。

「ごめ‥ワケはあとで話すからさ、とりあえず魂の井戸行かせてくれよ」

「‥‥チッ‥、とっとと行くぞ」

　何かまだ言いたそうだが、俺をズルズルと引きずりながら、井戸へと向かう。　

　

　

「‥‥ふぅ‥」

　魂の井戸と名付けられたこの場所にくると、どんな怪我でも一瞬の内に癒される。また、どういった仕組みなのかまったく未知のものだが、中に浮かぶ３つのクリスタルには不可思議な効果があった。

　そのうちのひとつに触れる。すると、井戸は俺の自室へと繋がり、アイテムを補充する事ができるという非常にありがたいものだった。

　さっそく自室へと繋ぐと、装備を変更する。

　これからはきっと、さっき戦った射撃の効かない敵もいっぱい出てくることだろう。ならば、接近戦メインでやるしかない。

　ライフルをしまうと、代わりに拳銃を２丁取り出し、銃弾を補充する。拳銃は、ライフルやマシンガンほど射程は長くないし攻撃力もないが、２丁装備すれば心強い相棒になってくれる。

　あとはガスＨＧと「あるもの」を取り出す‥。

　

「お待たせ」

　二人を促し遺跡探索を再開する。

「‥‥‥おい」

　相変わらず不機嫌な皆守が声をかけてくる。

「ん？なぁに？」

　ワザとのほほんと応える。

「チッ‥なぁに？じゃねーよ。さっきのワケとやらを話してもらおうじゃねーか」

　ち‥、ちゃんと覚えてたか‥。

　扉まであと１０メートル。

「あー、あれね‥‥」

　一気にダッシュし、扉の向こうへと駆け込む。

「おいッ！」

「ちょ‥九龍クンッ！！」

　二人が追い付く前に扉を閉めると、先程取り出した、自作の扉止めをセットする。

「あ‥開かないッ！？」

　ドンドンッと勢いよく扉が叩かれる。

「どーいう事だ！開けろッ、九龍！！」

「開けてよ九龍クン！！」

　二人の言葉に胸が苦しくなる。けど‥‥

「ごめん‥本当に、後でワケを話すから‥‥二人は戻ってくれ」

　なんとか言葉を絞り出すと、走って次の階層へと進む。

　

　

　トラップを解除し、進んでいくと‥

『敵影確認−−』

「マジかよ‥‥‥‥」

　真っ暗な通路の中での戦闘。暗視ゴーグルの電源を入れる。

　通路という限定された区域での戦闘なため、確実に仕留めていけば囲まれる心配は無い。ただちょっと数が多いんだけどね。

　なんとか撃破して進むと、そこにも大量の敵が居た。

「‥‥ッはぁ‥。まったくもって歓迎されちゃってる？」

　思わず軽口をたたいてしまうが、余裕は無かった。

　

ダンッダンッダンッ‥カチンッ

　乾いた音が響く。チィッ！！

　慌ててリロードするが間に合わない。

　

「グッ！！」

　とっさに両手でガードするが、見事なまでのその怪力によって壁に叩き付けられる。

　息が出来ない程痛かったが、痛がる暇などない。なんとか腕を上げると、トリガーを引く。まったく、弱点の的がでかくて助かった。

　大男が消えて残った敵は‥‥‥。

　H.A.N.Tで調べたそいつの名前は采女（ウネメ）。

　采女とは、古代、帝に使える女管のことをそう呼んでいた。采という字には＜美しい＞の意味もあることから、きっと選りすぐりの女性を集めていたに違い無い。

「ハッ‥采女‥ね」

　途端に笑いが込み上げてくる。

　美しい？ハッ‥確かに顔だけを見ればそうかもね。だが、残念。ムチのような腕に肩から生える大剣など‥その姿は醜悪でしかないんだよッ。

「ッハァ！！」

　距離を詰めると、裂帛の気合いと共に白刃を閃かせる。

　俺は弟と違ってあまり筋肉をつけていないので、適格に急所をつく戦法をしなければすぐに、体力を消耗してしまう。

　ここに来る前に一戦したその時に、弱点はヘソだということを突き止めていたので、思いっきり腹へと突き立て、斬り裂く。１体を瞬殺すると、もう１体からの攻撃が俺の身を掠める。向き直り、身を固める。非常に素早い采女２体が相手では、無傷というわけにはいかない

‥攻撃を受ける覚悟をした瞬間‥‥

「いっくよーーッ！！」

「嘘ッ！？」

　

　置いてきたはずの八千穂のスマッシュが決まり、采女の攻撃が止む。また、そればかりか、反動で壁に大剣が当たり、肩から外れて落ちた。うっそ、カッコよすぎ！

　とりあえず考えるのは後だ。

　落ちた大剣を拾うと、下方から遠心力にまかせ、振り上げる。

「シャァアアアアア！！」

　上ずった断末魔と共に消え去る。

『敵影消滅しました』

　‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

　

　静まり返った空間に無機質なH.A.N.Tの音‥。

「え‥えーと‥」

　

「えーっとじゃねぇだろッ！！」

「ぐッ！」

　つかつかと近付いてきた皆守の膝が、俺の鳩尾にヒットさせると、今度は組んだ両手の拳が背中に振りおろされた。う‥マジで容赦ねぇ。すっかり油断ってーか、ぼけっとしていた俺はモロに食らってしまい、地面と仲良くするハメになった。

　これで終わりかと思いきや、二つの重い物体が俺にのしかかる。

「ぐ‥はぁッ。マジ苦し‥‥ッ」

「ん、もーーッ！九龍クンったらヒドイよ〜なんで置いてくの〜ッ」

　俺の切実な抗議は一蹴される。

「これはどーいうことか説明しろよな」

「ってか、どーやってここまで来たんだよ」

　非常に素朴な疑問を投げかける。

「皆守クンがね〜蹴ったら開いたの」

　えへへ、と何故か得意げな八千穂‥おい。たしかに簡単に作った扉止めだけどさ‥いちおー金属製なんだからさ‥。やっぱこいつの蹴りはあなどれねー。

「で、納得いったか？」

　痛ッ‥マジ関節を完璧にキメるのやめて‥。

　

　‥‥‥‥はぁ。

　仕方なく白状せざるをえないわけね‥。

　

　

「お前たちに‥接近戦やってるところを‥見られたくなかったんだよ」

　俺としては苦渋の選択だったわけで。

「はぁ？んだそりゃ」

「痛ッ‥ギブギブッ‥」

　俺の上に座る皆守が、逃げられないようにと、ひねり上げた腕に力がこもる。ねぇ、マジ痛いって、関節はずれるってばッ！！オマケに、八千穂が正座しながらぴょこぴょこ跳ねるのが辛かったりってかマジ辛い。

「だーかーらッ、俺の接近戦って、残酷だの表情と行動があってねぇだの、すげぇ不評なんだよ」

　表情は見えないがきっと惚けているだろう‥二人とも。

「正直に話すから‥笑いたければ笑っていい」

　あーもう。仕方なく俺自身の理論と恥ずかしい過去を暴露する。

　ナイフとか相手の感触が伝わってくるのが駄目なのだ。時折ニュースで、所持していたナイフで相手を刺した、とかいうのをやっていたりするが‥俺にはものすごく信じられない。そんなことができるのは、狂人か、怨恨‥あとはただのバカモノだ。ま、仕事ってーのもあるけどね。

　動物だろうが人間だろうが、生きているものの命を奪うんだぞ。刃物はその感触が直に伝わってくるから苦手だ。

　だが、苦手などといっていられない世界に自分はいる。ではどうするか？

　俺なりの答えは、相手を苦しませずに逝かせる‥だ。

　では、一番苦しまずに逝かせる方法は？俺は、頭部破壊だと思っている。

　破壊力のある銃で破壊すれば、痛みを感じる間も無く逝かせる事ができる。感触が手に伝わらない銃は、俺にとって一石二鳥な武器なのだが‥銃がいつもあるとは限らないし、今回の采女のように銃が効かない相手には、刃物を使うしかない。

　仕方なく使う時は、なるべく即死させる箇所を狙う。そう、戦っているはずなんだが、夢中になると‥

「ダークな九龍クン？そんなの想像できないよ」

「あれをダークと言うのか‥、前はさ、その‥目的の為には手段を選ばないっていうのかな‥一時期、すげぇ残酷っていうのかな‥人として堕ちるとこまでいってたんだよな‥ははッ」

「いい加減なことは言うなよ」

「いッ‥‥！？いい加減なことじゃないってッ」

　そろそろ放してもらいたいんだけどなー‥‥‥。

「俺の家はね、代々《宝探し屋》なんだよ。その所為もあって、俺は正式に《宝探し屋》になる前に、というより小さい頃から危ない橋渡ってたんだよ」

　

　そう、結構あったんだぜ。

　

「小さい頃は尚更よく狙われたよ。それこそ親が見つけた、秘宝との取り引き材料にされるためにね」

　でも、いつも守ってもらえるわけじゃない。

「自分の身は自分で‥、小さい頃から武器は使っていたよ。でもね、ある時を境に、俺は変わった」

　その時の事を思い出すと今でも胸クソ悪くなる。

「俺には７つ歳の離れた弟いるんだけどさ‥、あいつが小さい頃、俺の目の前でさらわれたんだ‥‥ッ」

「‥‥ウソ‥‥‥‥‥ッ」

　八千穂が信じられないという声をあげる。

　自分でも無意識の内に、拳を握りしめていた。すると、俺の手をそっと包み込む手は‥皆守か‥‥‥。

　落ち着いてきた俺は、続きを話す。

「弟クン‥‥は？」

　恐る恐る聞いてくる八千穂。

「だいじょうぶ。弟は無事助かったよ‥‥けどね、俺はそれ以来‥そんな奴等が許せなくてね。向かってくる奴等は容赦なく叩きのめした」

　それこそ‥命を奪うことだって。

「そんな‥そんな時期がしばらく続いたんだ‥」

　

　あの時の事は、つい昨日のように思い出すことができる。

　

「んでさ、ワケあってしばらく離れて暮らしてた弟と再会した時に、俺達はまた襲われたんだ。その時は、弟がさらわれた時の事も思い出してムカついてた所為か、かなり残酷なやり方で‥‥」

　

　なんたって、文字通り『血の海』に佇んでいたんだからね。

　

「そうしたらさ、弟が『恐い』って大泣きしてね‥。泣かれたらなんか、途端に頭の中が冷えて、いままでしてきたことが急に恐くなった」

　

　ムシのいい話しだよな。

　

「それ以来、死について‥相手の痛みについて‥そんな色々なことを思うようになってからかな‥。相手の感触が伝わる武器が苦手になった」

　

　俺の手を包む、皆守の手に力がこもってゆくのが分かった。

　

「けど、戦わなければいけない時‥夢中になると、封印したはずの昔の自分になっている時があるんだ。それを‥その姿をお前達に見られたくなかった」

　

　そんな姿を見られたら‥‥ッ。

　

「せっかく仲良くなったのに‥嫌われると思った。だから‥‥」

「ヒック‥‥」

「え‥‥？」

　合わせて、鼻を啜るような音が聞こえたと思ったら、寝中の重みが減った。

「九龍‥ううん、尚樹クンってば‥そこまで‥考えてくれてたんだ」

　

　泣いてくれるのか？

　

「だ‥だいじょうぶ、尚樹クンは尚樹クンだもん‥嫌うなんて‥ヒック、しないってば‥‥‥ねぇ、皆守クンだってそうでしょ？」

「‥‥‥‥ああ」

　

「あ‥‥あ‥あ‥‥」

　

　ポタッ‥ポタッ‥‥‥

　

　

　目頭が熱い‥。ソレが自分の涙だと気が付く前に、温かい指先で拭われた。

　

　

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