＋＋＋4th.　Discovery「明日への追跡」

そんなワケで　＜銀河系より愛をこめて＞

　

　

　今は八千穂の依頼で、夜の女子寮の見回りをしている。八千穂は異星人の仕業じゃないかと心配していたが、不安材料は取り除いてあげたかったし、変質者がいれば叩きのめして、警察へ突き出せばいいだけだ。

　‥ふ、異星人かぁ。俺は宇宙人否定派じゃない。むしろ存在していると思う。

　宇宙はすげー広いんだから他に生命がいたっておかしく無いと思うんだが‥、キャトルミューティレイションが恐いんで、絶対にお近づきにはなりたくないけどねー。

「不毛だ‥ひっじょーに不毛だ。風邪引いて味の分からんヤツに、一日限定１０食のカレーを食わせるくらいに不毛だ」

　隣で愚痴をこぼす皆守。やっぱりお前ってば地球人のフリしてっけど、カレー星から、地球のカレーを調査するために派遣されたエージェントだろ‥なんていう事は知っていても、謙虚な俺は口に出さないけどね。ま、八千穂に上手くのせられちゃった自分を密やかに恨んでくれ。

「うう‥‥寒い。さすがに夜になると冷えるなァ‥‥。九龍。お前は寒くないか？」

「うー‥‥。こっちの寒さって、長野県にくらべたら全然たいしたことないんだけどさー。ちょいと暑っつい国にいたから寒くて仕方が無い〜」

「オッ、おいッ、そんなにくっつくなよ。寒いんなら、男子寮にでも戻って、毛布でも取って来いッ」

　ああ、あったかさが逃げてしまった。

「ちぇー、皆守のケチ。寒い時は、人様から体温を奪うという、俺のイヤガラセと実益を兼ねた愛情表現なのに〜」

　

　

「やっぱり、やめときゃよかったぜ。俺としたことが、つい‥‥。だいたい、こんな危険な事を同級生の俺たちに頼むか？異星人に誘拐−−いや、変質者相手に怪我でもしたらどうするんだよ‥‥。なァ、九龍？」

「いや、こめかみグリグリしながら普通にそんなこと聞かれても‥」

　なんとか過激なカレー星人から脱出する。

「おー痛ェ。‥‥ま、怪我は困るよな。なるべく、俺一人でなんとかしようと思うけど、絶対に皆守が怪我をしないなんて保証はできないからなァ‥‥」

「フンッ。まったくお人好しもいいとこだな」

「えー、困った人には、声をかけずにいられないという性格ですので‥」

　本当のことなんだが、とりあえず非常に嘘臭く聞こえるようなフリをする。素でこんな台詞言えば、偽善者と罵られかねないからねェ。

「‥‥‥お前にすべて任せておけば俺は何もしなくてもいい気がしてきた」

　いや、できればそこツッコんで欲しいとこだったんだけど‥。

「しかし、だ。これで風邪でもひいたらシャレにならないぜ‥‥。それに−−ん？何か鳴ってるぞ？お前の携帯か？」

　音を小さくしてあったので聞き取り辛かったが『アオキキヲク』の冒頭。

「ん？メールだ。こんな時間に何だろ？」

（メールを開く）

　

　‥‥‥‥‥‥‥。

　

「ハロ〜、やっちーだよって‥‥地球外生命体との友好を深めろと？」

　あはは、除いちゃダメだよって、可愛いねぇ。しかし風呂かァ〜冷えた体をあっためるにはそれが一番なんだよな〜。あ〜のんびりダラダラ浸かりたい。

「おッ？まただ。こんな時間に‥‥」

「ん〜なんだろ？」

　新たに届いたメールは七瀬からだった。

　すご‥、異星人に関してこんなに情報を。俺はH.A.N.Tのキーボードだからいいけど、携帯でこんなに情報を送ってくれるなんて‥‥。俺は携帯のメールって、なんだか入力がもどかしくって、こんなには入力できないってかしたくないんだけど、わざわざメールで異星人について教えてくれた七瀬‥すげー感動だよ。字数オーバーが残念だけど。

「もしかして、女からか？お前も中々隅に置けない−−−、」

　ありがとー七瀬ちゃ〜〜ん。マジ良い子だよな〜。

　うるうると感動に酔いしれていると、今度は皆守の携帯が鳴る。

「ん？今度は俺の携帯か？一体、誰からだ？」

　ふぅ‥お前だって隅に置けないじゃん。

「八千穂からだ。何々‥‥‥、『どう？異星人には接近遭遇した？月魅がいうには−−−』」

　

　‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

　やれやれといった感じで携帯を閉じる皆守。

「八千穂の奴‥‥、まさか、俺たちが異星人と接触するのを期待してんじゃないだろうな？」

　‥‥‥‥‥‥‥‥‥。いや、まさかというより、かなり期待してると思うよ。

　その後俺たちは、実は八千穂に見張られてるかも！？というちみっとばかし恐い疑惑を抱きつつ、見回りを再開した。

　女子寮の脇道を曲がった瞬間‥‥‥‥‥。

　

「うおッ！！」

　

「へ？」

　

　ドカッ！

　まるで出来の良いコントのようにブチ当たったソレは、仙女をイメージさせるド派手なプリントが印象的な、皮ジャン男だった。

「‥‥ッ痛て〜〜〜」

「痛ててて‥‥‥。急に角を曲がってくるなよ‥‥」

　ッて、それを言うならダッシュでツッコんでくるなよアンタ‥‥。前方不注意だろーに‥。

　ふぅ‥、大丈夫かと一応声をかけてくれるカレー星人の腕を使って起き上がる。

「おッ、おいッ、俺の手を借りずに、ひとりで起きろよ」

「立っている者は親でも使えってね‥」

　カレー星人はスキンシップに弱いっと。一方的に触ったり、ドツいたりするのは得意な癖に、俺がペトペトするとすっげ動揺するんだよねぇ。それが面白くって、反撃されるリスクを冒しつつも構ちゃうんだけど。

　

「おいッ、ちょっとは俺の事も心配しろよッ」

　そこはかとなく意識的にシカトしていたのだが、抗議の声があがったよーな気がしたので振り向く。

「ハローッ」

　やっぱりと表現したほうがいいだろうか。改めて見直しても、余計に怪しさが滲み出まくってるよ‥この人。

　

「こんばんわ。お怪我はされていないようで、何よりです」

　ニコっと営業スマイル。

　

　

　いや、‥‥‥‥フレンドリィなんだなぁって‥。ねぇ、気がついて、俺の慇懃な態度‥‥それともワザと？っちゅーか、今のアンタ以上な不審者なんて思い付きませんからッ！

「何だ、このおっさんは？」

　え、２８歳なの？‥‥‥ズガーん！？俺と３つしか変わんねぇええええ！！カレー星人の『俺たちから見れば、十分、おっさんだろ』とゆー台詞に胸が痛かったりしちゃう２５歳の秋の夜‥‥‥。

　密やかにハートブレイクっぽい気分な俺の心境などおかまいなく、事態というものは進行してゆく運命。

　とりあえず、この人は鴉室　洋介という探偵らしい。だがしかし、探偵というのは仮染めの姿で‥‥実はッ！！

　宇宙レベルに壮大な、ロマン溢れる御職業‥宇宙刑事ッ！‥だそーだ。話がものすごーいことになってってるので、どこで収集つけるのか気になるのでほおっておいたら‥‥‥‥‥。　

　

ゴシャァアアア！！！

　‥‥う、延髄‥‥マジ痛そうだよ。

　手加減知らずなカレー星人の見事なツッコミ（蹴り）が炸裂する。容赦ないねーやっぱり。まったくツッコミの鬼ってか、鬼っ子だよこの子‥‥。ちょっぴし宇宙刑事に同情しちゃったりする。

「いきなり蹴りやがってッ、何するんだ、このガキッ」

　おお、過激なカレー星人に立ち向かう宇宙刑事‥すごいぞ！だが、カレー星人は手強いぞ！って、予想はしてたんだけど、カレー星人にアッサリ促され、しぶしぶ正体を語り出す。

　先ほどとはうって変わって、真面目な口調。行方不明になった親御さんから依頼を受けて、この天香学園を調査をしているとのことだった。至極ありえそうな‥もっともらしい話しではあったが、本当の正体は探偵ではないと感じた。何故かって？そりゃ、こーいうとぼけた人程注意しないといけないからね。さらにこの学園に協力者が居るって？

　ただのハッタリかもしれないが、嘘だとは思えなかった。要注意っと。

　鴉室と別れた俺たちは、見回りを続けることにした。

　

「‥‥おっと、そういや−−ここに来る前に缶コーヒーを買って、ポケットに入れておいたの忘れてたぜ。お前にも一本やるから飲めよ」

　‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥なるほろ。それでさっきくっついてた時、とーっても温かかったのね。むー、温かいものをくれるのは嬉しいんだけど‥コーヒーか‥‥‥。嫌がらせに俺の苦手なブラックだったらどうしよう。俺がブラックコーヒーが苦手なことはバレちゃってるし‥‥。う〜〜

　頭の中であーだこーだと、当たり障りの無いように断るシュミュレーションを密やかにしていたのだが‥‥。

「‥‥‥アッ！」

　思わず声が出てしまった。

　手渡された缶はカフェオレだった。マジ？？とっても素敵な偶然？？

　皆守の持っている缶はブラック‥‥ってーことは、わざわざ俺のために選んで買ってくれたって事‥‥だよな。

　すげーーすっげーッ！なんかメチャクチャ嬉しいぞ！！

「ありがとうッ、皆守ッ！すっげマジ嬉しいよッ」

「そんなに喜ばれるとは、買ってきた甲斐があるぜ」

　うんうん、ありがとな皆守ッ。

　

　

ガサッ

　

「ん？」

　草木の茂みで何か音がする。

「何か音がしなかったか？」

　音の方向へ顔を向ける皆守。

　

「‥‥‥‥‥‥！？」

　

　低い振動音が聞こえてくる。緊張感が走る。

　

　ありえないくらいに不自然で、まばゆい光が辺りを包み込むと、白い煙りに包まれる。煙りを吸い込まないように息を止め、辺りをうかがう。ふと、隣の皆守の様子がおかしいことに気がつく。

「おッ‥おい、九龍！！あれを見ろッ！！」

　皆守の指差す方向に目を移す。まばゆい光の柱の中にうかぶ、不自然なシルエット。

んーーーーーん？？

「ま‥‥まさか‥‥」

　驚愕する皆守‥‥‥‥。いや、なんてーか先に驚かれちゃうと、なんかかえって頭の中が冷静になっちゃうんだよね。

　

『ワレワレハ−−−』

　え？うわーーしゃべっちゃったよこの物体‥って！？

「九龍‥‥。やっぱりこの宇宙に異星人はいたんだ」

　うっそ！！クールできめてる皆守が興奮しちゃってる？

「九龍‥‥‥‥。今、俺たちは地球人の歴史的瞬間に立ち会っているんだッ！！」

　ぷ‥‥ククククッ！！く‥‥苦し〜〜マジ面白いよどーしよう！！は‥‥腹痛ェ〜〜マジヤバイ！

　

ブツンッ

　

「ん？」

　何かが切れる音がすると同時に光が消える。

　‥‥ん〜〜〜〜〜〜、なんか女子寮から停電ッ？とかーなんちゅーか世知辛い話声が聞こえてきちゃったりするんだよねぇ。皆守〜気を確かになッ！！

　‥‥‥‥‥‥‥。

　

　‥‥‥‥‥‥‥。

　

　‥‥‥‥‥‥‥。

　え〜〜っと、沈黙って耳に痛いよね♪

　

「ワレワレヲ−−−」

ドグシャァアア！！！！！

「おぐォ！！」

　あ‥‥ああ、なんかものすっげー鈍い音が‥‥。

　暗闇に浮かんじゃった物体Xに我らがツッコミの申し子‥皆守が缶を思いっきり投げ付けていた。

「か‥‥顔に缶がぁあああ〜〜」

「あ‥‥悪い悪い。つい投げちまった」

　呻く物体Xに、サラリと暴言を投げ付ける皆守。

　ああん、相も変わらず容赦ないんだからぁ〜。

　物体Xとカレー星人とで、罵詈雑言のラリーが始まっちゃってるみたいなんだけど‥。ビューティ・ハンターの素敵演出と、皆守のおもしろ可笑しい素敵リアクションとをダブルで見ることが出来て、なんだかとっても充実した気分だったりする。　

　

　

　

　なんだかんだで遺跡へ行くことになってしまった俺は、武器を調達しに自室へ戻る。

「あ‥‥‥‥‥」

　せっかく皆守からもらったカフェオレを飲むのをすっかり忘れていたことに気がつく。缶をじっと見つめるが、なんだか飲むのが勿体無いような気がするので、お気に入りの紅茶の缶を陳列してある棚にそっとしまう。

「さてと‥早く行かないとね」

　

　

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