＋＋＋3rd.　Discovery「あの炎をくぐれ！」

サイドストーリー　＜結果オーライ？：皆守視点＞

　

　

　「ふわぁ〜〜ぁ」

　朝の日の光を浴びながらアロマを吹かす。

　今までならば確実に寝ている時間‥だったハズだ。どこで道を誤ったのかここ数日はこんな調子だった。

　そう、どこで誤ったかなんて分かっている。あの転校生、九龍　尚樹のせいだ。初めて出逢った時は気の合う級友としてうまくやっていけそうだと思った。そう、思っただけだ。あんなに危なっかしいヤツとうまくやっていけるなんて感じてしまった自分が情けない。

　お人好しで危険を承知で敵に向かってゆく大バカ野郎。んでもって、時折見せるすべてを包み込むかのような軟らかな笑顔‥あれが気にくわない。あーそーだよ、とにかく気に入らないっていったら気に入らないんだよっ。

　そんな九龍がいつの間にか‥何をトチ狂ったのか保護者ヅラするようになって大いに迷惑している。最近なんぞ「不健康優良児を更正する会名誉会長」などと称してHRに間に合うように迎えにくるようになりやがった。実家が葬儀屋な脳外科医と同じくらい嫌なかんじだ。俺に保護者ズラするなんて１００年早いんだよ。

　ふと、時計を見ると意外と長い時間いろいろ考えていたことに気付くが‥

「おかしい‥。いつもならバカヅラして奴がきてもいい頃なんだが」

　時は刻一刻と確実に刻まれてゆくというのにあいつは来ない。

「まさか三日ボーズとかいわねぇだろうな」

　気にくわない‥ひっじょーに気に入らない。なんだか無闇やたらとイライラしてきて蹴りの一発でもお見舞いしたいという人としてごくありふれた感情が沸き上がる。俺は本能の赴くままに九龍の部屋に行くことにした。

　ドンドンドンッ！

「おい九龍っ生きてんなら返事くらいしやがれ」

　とりあえず俺的には友好的に声をかけてやった。

　

　‥‥‥‥‥‥‥。

　応答が無い。まさか先に行ったんじゃねぇよな？九龍。

　ムカついてきたんで怒りの鉾先をドアにぶつけようと脚を振り上げようとすると、ようやく中の住人が出てきやがった。

「なっ‥まだ寝てやがったのかよっ」　

　しかし妙な格好だった。まだ寝ていたにしては部屋着ではなく学生服を着ていた。九龍は今どき珍しく制服はキチっと着こなすやつなのだ。しかし今はその学生服も上着は着ておらず、代わりに素肌にＹシャツを羽織っただけという俺でさえやらないほどダルい着こなしをしていた。

　文句を言おうと口を開きかけたが、先ほど戸を開けてから九龍は動いていない。それどころかまるで幽鬼のごとく朧げだった。

「九龍っ」

　朝靄のごとく消え入りそうな九龍の肩をとっさに掴むが‥‥。　　

　九龍の手が俺の頭に触れる。

　「げはっ！！」

　奴の吹っ飛ぶ声。

　俺は脊椎反射ばりの反応の早さで奴に蹴りを入れていた。くそっ、いきなり人の頭を撫でる奴がいるかっ！！今のはお前が悪いんだからな。謝れっていわれたっって謝る義理なんてこれっぽっちも‥ミトコンドリアほども無いからな。しかも、くそっ！インパクトの瞬間、ヤツは腹筋に力を入れて身を守るだけではなく自ら後ろへ飛ぶことでダメージを最小限に押さえやがった。腐ってもトレジャーハンターってか？俺の華麗なく脚技を防ぐなんてナマイキなんだよ。

　‥‥‥‥‥。

　上手い具合にベッドに倒れこんだあいつがなかなか起き上がらない。　

　おい？まさか‥‥‥‥！！

　ふと、あれほどに存在感が希薄だったのは具合が悪かったからではないかと、脳裏に一抹の不安がよぎり、駆け寄るとあいつの顔が青白い。

「おいっ顔色悪いぞ。大丈夫か？」

　九龍の頬に手をのばそうとすると‥

「あー、平気平気。今着替えるからちょっと待っててよ」

　まるで心配させてはいけないとでもいうように微かに笑みを浮かべると軽やかに起き上がる。そんな姿が非常に気に入らない。ふん‥俺の心配を返せよ。ちゃんと利子付きでな。

　

　俺はしばらくベッドに腰掛けていたが、ふと視線をずらすと段ボール箱がいくつか散乱しており、ヒマだったのであさることにした。

　最初はでかいいつもの亀マークの入った箱をあけるとゴツい銃が出てくる。これはライフルか？ったく、九龍はあの華奢な体でこの鋼鉄のカタマリを自在に操る。颯爽と敵を葬り去る姿は凛としていて‥‥‥‥。なんかムカついてきたのでポイと投げ捨ててやった。鏡越しに奴の悲しがる顔が見え、多少は気が晴れた。

　次に手をのばした箱はなんだか小洒落た外装が腹立たしいものだった。何が入っているのやら。

　

　‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

　

　パンドラの箱を開けてゆく。中から出てきたのは、金で出来た腕輪にアンティークを思わせる上品な髪止め‥と、薔薇ッ！！

　あー、そーかそーか九龍。女っぽいとは思ってたがまさか女装癖があったとはな。好きならいいさ俺は止めないぞ。ふん、暑苦しいやつめ‥‥ッて！？んな訳あるかぁあああああッ！！

　否応なく視界に入ってくる送り主からの手紙。九龍なんぞにわざわざ日本語でお礼を書いてくるヒマな皇太子からだ。丸みをおびまくった字体が俺を更にイラつかせる。

馬鹿かッ！？野郎にこんなモン送りつけやがって何考えてやがるッ。

「どうしたーー‥‥って、うわっ！？」

　ようやく着替え終わった九龍が俺の方を覗き込むが、フラついて倒れてきた。ふん、全然大丈夫じゃないじゃないか。

　一応受け止めてやるとふと‥九龍が埃っぽいことに気が付く。おかしい‥。ゆうべ探索を終えた後、きちんと風呂で汚れを洗い流していたはずだが？

　急に回転し始めた俺の脳が、最後にこいつを見たときのことを思い出す。パソコンを前に、そこはかとなく餌をねだる小型犬のような表情。そしてこの具合の悪さ‥単なる寝不足や病的なものには見えない。しいて言うならば、体が悲鳴をあげているという感じだ。

ぷち‥。

　一瞬のうちに、ある推論をはじき出す。それと同時に俺の中の何かが壊れた。

　抱えていた九龍を乱暴にベッドへと逆戻りさせると、俺の本能が鳩尾（人間が鍛えられない部分のひとつ。つまり急所）に足を移動させろと命令する。足蹴にされてすっかり怯えきった表情が俺の嗜虐心を最高に煽る。

　哀れな小動物に多少の慈悲とばかりにできるだけ優しく尋ねてやる。

「なぁ、九龍。正直に言おうな」

　俺は毎日毎日‥あれほど無茶はするなと言っていたハズなんだがな？まさか一人っきりで遺跡に行くなんて悪行はしでかしてないよな。

そんなハズないよなぁ。俺があれ程忠告してやってるのに‥な。

　

　

　さぁ、俺の推論が当たっているかどうか話してもらおうじゃねーか‥なぁ九龍。

　

　

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