＋＋＋3rd. Discovery「あの炎をくぐれ！」

サイドストーリー　＜結果オーライ？：主人公視点＞

　

　

　ゴリゴリゴリ‥‥

　無気味な金属音が部屋を支配する。ここ天香学園の寮は意外と防音対策がしっかりとされているおかげで、おおがかりな作業も自室でできるところがありがたい。

　ゴリッ‥‥

　最後の微調整が済んだ金属片を手に部屋を出てドアの鍵穴へと差し込む。

　カチャリ‥

「お、成功〜〜♪」

　などと小声で喜ぶ俺の姿は怪しいの一言に尽きるだろう。さすがに、マジで怪しいなんていう噂がたつのは恐いので早々に自室に戻る。

　一仕事を終えた達成感‥しかし何故か釈然としないものを感じている俺は、大好きなミルクティーでも入れて自分を労うことにした。戸棚から取り出した缶から茶葉を２杯ティーポットに入れる。ティースプーンひとさじが１杯分。紅茶を入れる時には、いれる人数分プラス、紅茶の精の分としてもうひとさじ多く入れると美味しくなる。そんな話を幼い頃に母さんから聞いて以来なんとなくやってしまう習慣。お湯を注ぐとかすかに紅茶特有の良い香りがふわりを鼻腔をくすぐる。

　これこれ、この香りが好きなのだ。

　香りを惜しみながらも、ティーポットに蓋をしてしばらく待つ。

　ふと、自室の鍵を自作するというなにげに理不尽な行動の原因を思い返す。

　ドンドンドンッ！

「おい九龍っ生きてんなら返事くらいしやがれ」

　気だるそうなイラつく声が聞こえてくる。んー、、この声は絶対に皆守だろう。非常に眠いがこのままシカトでもしようものならばドアを蹴破られるのではないかという一抹の不安が日々の学習からか脳裏を掠めたため、気合いと根性でドアを開ける。

「なっ‥まだ寝てやがったのかよっ」

　アロマの香りが半覚醒状態の俺のノーミソを刺激する。う‥この香りは朝っぱらからはキツイと感じる俺は間違っているでしょうーか。

「九龍っ」

　一瞬トリップしていたせいか、皆守に肩を掴まれる。その感覚が、昔弟に冗談めかして「兄貴っ！こんなとこで寝たら死んじまうぜ！！」などと言いながらガックンガックン揺らされた記憶を呼び覚ます。人間ぼーっとしている時は意外と余計なことを思い出す。なんか懐かしくなってしまってついうっかり、目の前の人物の頭をポシポシと撫でてしまう。しかしこの行動が間違っていたことを、０コンマ２秒後に後悔することになる。

「げはっ！！」

　俺の腹に皆守の靴先がめり込み吹っ飛ばされ、ベッドへと逆戻り。ヒットする瞬間、無意識に腹筋に力を入れた自分の防衛本能の奇跡の発動に感謝！！

　うーん、普通のヤツならマジ吐くってあの蹴り。

　皆を守ると書いて皆守。普段のけだる気で、人との関わりを避けるような態度からは想像できないが、実は転校生の俺に色々と世話を焼いてくれたり意外に気配りもきく。このアンバランスな行動が妙に可愛く見えてしまう。もともと弟と同じ年代ということもあり無意識の内に子供扱いしてしまう。

「おいっ顔色悪いぞ。大丈夫か？」

　気が付けば皆守に顔を覗き込まれていた。いかん、うっかりまたもやトリップしてしまったらしい。はは、大丈夫かと心配するくらいならもーちょっと手加減してもらいたいものだ。手加減を知らないのはお子さまの証かぁ、困ったもんだと自然と笑いがもれてしまう。

「あー、平気平気。今着替えるからちょっと待っててよ」

　ふんっと、鼻をならすとベッドに腰掛けた。どうやら待ってくれるみたいだ。

　くらくらとする頭をなんとか支え、ごそごそと着替えいはじめる。うー、さすがにゆうべの無理が祟ったのか体がうまく動かない。そんなこんなで俺がモタモタしていると皆守は床に無造作に置かれた段ボール箱をあさりはじめた。

　亀急便の箱からはつい２時間程前に注文したばかりのG3A3ライフルが出てきた。あのライフルは攻撃力の高さと射程の範囲が広さが魅力的でどーしても欲しくて欲しくてようやく手に入れたのだ。あ〜早く使ってみたい‥などと思っているとカレー星人にはその良さが理解できなかったのか、さして興味も無さそうにポイッと放り投げ次の箱に手をのばした。

　ああんっ‥俺のG3A3ライフル〜〜〜‥‥ん？？品の良さそうな箱を開けたと思ったら何故だか固まってしまったぞ。んーー、あれはたしか青い瞳の皇太子サマからのお礼じゃなかったかな。あの人の依頼の報酬はちょいと高額で実入りがよかったんで、ライフルのためにバリバリ依頼をこなしていたらいろいろいただいてしまったのだ。

「どうしたーー‥‥って、うわっ！？」

　ようやく着替え終わったので箱の中身を見ようと移動したら、昨日の無理が祟ったのかバランスを崩してしまう。床に激突を覚悟していたが、いつまで経っても激突しない。ようやく皆守が受け止めてくれたと分かり、その素敵な反射神経に感謝しようと思った瞬間、ぼすっとベッドに押し倒されると片足が俺の鳩尾にあてられ、グリグリと踏まれている。

　痛‥っつーか恐っ！？俺を見下ろす目は、半眼になり凄みが嬉しく無いけど増量中。だがそのクセ声色が妙に優しい。

「なぁ、九龍。正直に言おうな」

　口元が笑みの形を造るがアンタ目が笑ってないですから‥‥。大人の余裕を見せつけようと気の効いたアメリカンジョークでもかまそうとしていたが今は迂闊な一言が命取り。一触即発のピンチ。

「ゆうべ探索が終わったのは深夜１時だったよな？」

　

　うんうんと頷く俺。

　

「んで、その後はなにしてたんだ？オニーサンに正直に話やがれ」

　本来なら俺は２５歳だからして皆守に子供扱いされるいわれは無いが、ここでは同じ学年という設定だが、２ヶ月早く生まれたという理由で俺を子供扱いされる‥‥う、脳味噌が現実逃避を謀ろうとしたが鳩尾の痛みで現実に否応なく連れ戻される。

　仕方なく、正直にあともーすこしでライフルが買えそうだったので一人だけでこっそり探索しなおしちゃったことを白状した。

　

　かはっ！！

　余りの衝撃に俺は悶え苦しむ。マ‥マジ死ねるって。

「九龍　尚樹、本日腹痛のため欠席と。まったく情けないやつだぜ。不健康優良児を更正させるため、遅刻しないように毎朝迎えにくるとか宣言してまだ１週間だぞ。俺を更正する前にダウンしやがって。あーもう、先が思いやられるぜ。お前って、あれだろ。人のことはとやかくいうくせに自己管理まったくできねーバカだろ。ああ、バカってーのは知ってたがな、お前になんかあると八千穂にあれこれ言われて面倒なんでな。その前に俺が管理してやるから感謝しな」

　そう言うだけいうと、机に置いてあった部屋の鍵を没収された。

　鍵を没収されてからというもの、本当に俺の健康管理をしているらしくあれこれ世話を焼いてくれる。オカンみたいだな‥ま、ともすれば自分の健康管理がおざなりになってしまう俺にとっては非常にありがたいが、さすがに自分の部屋の鍵がないのは不便なわけで、仕方なく良い子（？）の楽しい工作と称して自作した。　

　

「おい、さっさと寝ろよ。明日起きれなくても知らねぇぞ」

　回想に没頭していたせいで皆守が来たことに気付かなかった。

「すまない、これ飲んだら寝るからさ。今夜も飲んでいかないか？」

「はいはい、一緒に飲んでやるからちゃんと寝ろ。な」

　少々抽出時間が長くなり濃くなってしまったがミルクティーにはその方があうし、渋ければミルクを多めにすればいい。ティーカップにハチミツを一杯入れ、温めたミルクを入れてから紅茶を注ぐ。

　

　最初は紅茶には合わないと思っていたアロマだが最近は気にならなくなっていた。

　

　

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