＋＋＋2nd.　Discovery「蜃気楼の少年」

サイドストーリー　＜アロマと真夜中のお茶会：九龍視点＞

　

　

　人にとって大切な《宝》を見つけだすことが出来た喜びと、それによって鎌治を、闇の中から救い出せたということに対する満足感が疲れた体に心地よい。

　鎌治の体から抜け出してきた《黒い砂》は天井に凝って新たなる化人となった。神産巣人（カミムスヒ）という異形の化け物、この回廊の最後を守る化人だけあって、今まで相手にしてきたやつらとは格が違った。しかし、皆守と八千穂という強力なバディの助けもあり、なんとか撃破すると数枚の楽譜に変化した。

　楽譜−それこそが、鎌治の大切な思い出とともに失っていた宝だった。

　《宝探し屋》として初めて何かを成し遂げることができた。

　‥‥‥ふ、なんたって初仕事で味わうはずのこの思いは《秘宝の夜明け》どもに襲われた所為で散々だったからな。あんなフザケタヤツラは俺が生涯を通じて絶対に壊滅させちゃる！と心に誓ってしまうほどにムカツク存在。

　あー、思い出したらムカムカしてきやがった。

「やめやめッ」

　せっかくの心地よい気分が台無しだ。お茶でも入れて気分転換しよーっと。

　部屋に安置された木とガラスで合成された棚に並ぶ、数種類の缶の中から選んだのは中国茶のひとつ金萱茶−ミルクのような香り、個人的には何故か桃を連想してしまう甘い香りが魅力的なお茶。この香りには（たぶん）リラックス効果があるので、飲んだ後に気持ちよく眠れると思ったからだ。

　早速茶器を出し、茶葉を入れようとした瞬間‥‥‥ドアをノックされる。

　ドンッドンッ

「おい、まだ起きてるんだろ。冷たい飲み物きらせちまったから、なんかよこせ」

　んまーなんて横柄な子ざましょ、などと何処ぞのオバチャンのよーな台詞をボソリと吐いてしまった。

　この声は、けだる気な雰囲気とラヴェンダーのアロマが印象的な皆守だ。先ほどは危険を承知でバディとして協力してくれたし、転校してきてまだ日も浅いというのにこうして部屋に尋ねてきてくれるのは本当に嬉しいかぎりなのだが‥‥。

　アロマの香りがキッツイんだよちくしょーーッ！！金萱茶の香りも結構するほうなんだが、ラヴェンダーはもっと強烈なんだよ〜。うう、泣き笑いしたい気分になってしまった。

　いや、せっかく来てくれた皆守に対して失礼な考えということは分かっているのだが、ついつい昔飲んだラヴェンダー入りのフレーバーティーが口に合わなかったことを思い出して悪態をつきたくなったのだ。いかんいかん‥

「開いてるよー」

　気軽に答えると、やはりアロマをくわえた皆守が部屋に入ってくるなりズンズンと俺に向かってくる。なんか俺悪いことしたか？そこはかとなく怒りのオーラを感じるんですけどー‥などと思っているといきなり首を絞められた。

「ウッ！？」

「九龍‥キチっと鍵ぐらいかけろ。お前の部屋には物騒なものがテンコ盛りなんだろーが、ちったぁ用心しろよな」

　手加減ってーものを母親の胎内に置き忘れてきたのだろうか。密やかに手を首から剥がそうと試みるがちっともダメだったりする。マジで苦しいのだが、俺はついつい軽口を吐いてしまう。

「イナカじゃ‥留‥守してても‥鍵はかけないの〜♪」

　嘘−確かにいまだに鍵をかけない地域もあるが、俺の昔住んでいた場所はそうではない。しかし、なんか弟と同じ年代の子にやられっぱなしというのも悔しくて、つい言ってしまったのだが、この行為は文字通り自分の首を更に絞めることとなる。

「ほ〜〜、貴様はそう言って銃を持つ者の責任を放棄するつもりか」

　そうです、そうです。銃を持つ者はかならず施錠のできる場所でキチンと管理しなきゃいけないんですーって、よく知ってるじゃないか。

　さすがにそろそろ命の危険を感じはじめたので、本格手にこの状況を回避するべく行動を起こす。首を絞められている時には、ただ相手の手を剥がそうとしても無意味だとは知っていたが級友なんだし、などと悠長な考えはコイツには通用しない。

　これがただ襲ってきたヤツであればひざ蹴りでもお見舞いしてやるところだが、そんなことは出来ないので、アロマパイプを奪って気をそらす。

「なッ！？」

　動揺する皆守の懐に飛び込む‥というか、空いた手を肩にかけさせてもらいもたれ掛かる。

「っはぁーー、マジ苦しいって」

　息を整える間、皆守が大人しくしていてくれたので助かった。ようやく顔をあげると、そこにはいたずらっ子が母親に叱られる前のような表情があった。ふぅん、こういう顔もできるんだな。ちったぁ手加減しろよと目の前に正座させて、延々朝まで説教した後に４００字詰めの原稿用紙３枚に反省文を書かせたい気分が薄れてゆく。

　仕方ないなぁ。

　俺は皆守から離れると、ごく自然に奪ったアロマパイプをくわえるとクローゼットの前へ行き、中を見せる。

「ほら、フツーのごくありふれたカンジしない？」

　中に入れてある普通のもの入れに偽装したものを指差す。

「これに危険なモノは入れてるんだけど、パッと見分からないだろ。それにちゃんと丈夫な鍵がかけられるようになってるからさ、安心しろよ」

　沈黙している皆守。うんうん、俺の説明に納得してくれたか。　

　

　気を良くした俺は大人しくしている皆守にパイプを返す。

「冷たいものもいけど、これからお茶を入れるところだったんだ。けっこー良いお茶なんだぜ。せっかくだからのこれ飲んでいかないか？」　

　極上の営業スマイルで誘う。

　

　やつはしぶしぶながらも俺のささやかなお茶会に付き合ってくれるようだった。

　

　

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