+++2nd. Discovery「蜃気楼の少年」
地下遺跡 序の紀<裏切りと大人の事情というやつ>
ついに二人を連れて遺跡へと潜ることになってしまった。
まずい‥こんな一般人を遺跡と言う危険きわまりない場所へと、連れてくることになってしまった自分へ嫌悪感が募ってゆく。
なんとか二人に帰ってもらう方法はないだろうか。
参ったなぁ。ただでさえ自分の弟と同じ年代の子というだけでも感情移入しやすいというのに、こんな良い子達ならなおさらだ。
八千穂 明日香という少女は、明るく真直ぐで、例えるなら真夏に太陽へ向かって咲き誇る向日葵(ヒマワリ)だ。少々その性格には難があるが、一緒にいると元気のお裾分けをしてもらっている。
皆守‥皆守 甲太郎。この子は非常に面白い。だがきっと、本人に面白いなんて言ったら蹴りが飛んでくるだろう。ラヴェンダーの香りを身に纏い、けだる気で、やる気の無さそうな態度は既に免許皆伝ものだろう。そして他人との接触には非常にドライなクセに、妙に世話焼きな一面があり、(一応)転校生である俺には本当によくしてくれる。
そうだな、例えるならハリネズミといったところかな。鋭い針を身に纏い近付くものを拒絶する‥‥くくッ。シリアス思考を俺の脳が拒絶したかったのか、世界初天然パーマなハリネズミを想像してしまった。
「どうかしたのか?」
「えッ‥」
げッ、まさか俺の失礼な想像に勘付いたのだろうか。いや、そんな訳ないよな‥二人は俺の後ろを歩いているのだから。
「いや、凄い遺跡だな‥そう思って」
なんとなーーく、怒気をはらむ皆守の声にビビッて、つい思っていたこととは全く別のことが口から出てくる。大人ってキタナイね。てへ。
「おお〜、尚樹クンが見てもここってやっぱり凄いんだッ!」
ナイスだ八千穂ッ!皆守が何か言いたそうだがオニーサン恐いんでそこはかとなくシカトさせてもらうよ。
「そりゃね、これは相当凄い遺跡だよ。俺、これが2回目の探索なんだけどさ、2回とも凄いところに派遣してもらえるなんてツイてるよ」
「なッ!?」
驚く皆守‥。うう、経験不足な俺で不安になったのだろうか。
「ねぇねぇッ、初仕事はどうだったの?成功?それとも失敗?」
皆守の表情は心無しか曇っているように見える。どうしたというのだろう。
「んー、半分成功半分失敗ってトコかな」
「なにそれ〜〜詳しく話してよ〜」
「はは、エジプトにある巨大な神殿で、今までたくさんのトレジャーハンターが潜っても辿りつけなかった場所まで行けました〜」
「すごーい尚樹クンッ!初めてで誰も辿りつけなかった場所までいけちゃうなんて〜‥‥ん、でもなんで半分失敗なの?お宝は無かったとか?」
「いいや、ちゃんと秘宝も手に入れたし、その後にでてきた墓守も撃破したよーん」
H.A.N.Tであのとき倒した敵の情報を見せる。
これを見て遺跡の探索というのは非常に危険だということを分かってくれるといいんだけど‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥いかん、意味無しかぁ。
八千穂は喜んじゃうし皆守は‥、自己顕示欲の表れだと思われてしまったのだろうか?今度ははっきり分かる程に機嫌が悪い。‥‥っはぁ。
ええい、あの話もするか。それを聞いて呆れるなら呆れろッ!それでお前達が遺跡を出てくれるなら嫌われたっていい。
「いや〜参った参った。クエスト達成かと喜んだのもつかの間でさ。神殿から出たらなんとなんと〜フザケタ秘密結社の連中がお宝を横取りしようとバカみたいに大勢で待ち伏せしてやがってもーー多勢に無勢ってカンジ?運良く墓の中から悪霊がわんさかと出てきてくれたおかげで、やつらの隙をついてなんとか逃げだせたんだけどさ、今度は砂漠でのたれ死にそうになっちゃった〜。‥‥‥ッ痛〜〜〜〜〜!?」
突然、皆守のつま先が俺の顎を蹴りあげる。
「何する‥!?」
俺は抗議の声をあげようとしたが言葉は途中で途切れてしまう。なんて‥なんて顔するんだよ。なんでそんな恐い顔してるんだよ。
「ばぁーーか、んな話し自慢になるかッ」
頼む、そんな顔で俺を見ないでくれ。胸が苦しくなるが口からでるのは下らない言葉だった。
「いいじゃんよー、喉元すぎれば熱さを忘れるってーか、今生きてるからこそネタになるというかなんちゅーか‥」
「バカめ、てめぇみたいなヤツが早死にするんだよ。学習能力のないバカがな。ふん、下らねぇこといってないでさっさと行けよ。用事済ませてさっさと帰りやがれ」
ドッ‥
背中に響く鈍い音と痛み‥皆守に背中を蹴りだされて先を進むことになった。
パララララッ‥‥‥!
俺のマシンガン、MP5Α4が火を吹く。けたたましい悲鳴とともにコウモリのような敵を撃破。
「ビンゴッ!!」
まずは顔面を狙ったのだがそれが良かった。どうやら額が弱点だったらしく数発で倒すことが出来た。しかし‥マズイ。この恐るべき破壊力を持った鋼鉄の武器を使っても数発も弾を使ってしまう。この遺跡に住まう敵達も、最初の‥ヘラクレイオンの遺跡にいたやつらのように非常に危険だ。
なんで‥なんで分かってくれない!
ここはこんなに危険なんだ‥帰れ‥頼むから帰ってくれ!!
「チッ‥」
こんな奴等の攻撃があの子らに当たったらヤバイ!
俺は自分へ攻撃を集中させるため、前へと出る。
カンッカンッカンッ‥
ライフルから薬莢を吐き出す。
「クソッ!弱点は何処だッ!!」
コウモリのような敵はなんとかなったが、奥にいた化人(ケヒト)‥ファラオの仮面をかぶったミイラの弱点が分からない。チクショー、効果的な攻撃が出来ないから弾がどんどん減ってっちまう。
カチンッ‥‥
「なッ!しまっ‥‥」
熱くなり過ぎて弾数を数えるのを忘れて前に出過ぎた。
慌ててリロードするが、敵が攻撃範囲に入ってくるには十分すぎる時間だった。
「キャッ‥九龍クンッ!!危ないッ」
奴らの巻いている包帯が俺に向かってくる。
「‥‥‥グハッ」
ッチショー。予想通りとてつもない攻撃力だった。ヤバイ‥‥
リロードを終えたマシンガンが再び咆哮を上げるが、あいかわらず俺は弱点が分からないため効果的な攻撃ができない。
伸びてくる包帯‥。倒しきれない敵からの反撃がくる。
覚悟をきめた俺だったが‥‥‥。
「あ〜眠ぃ〜」
突然の後ろからの重みで倒れてしまい、おかげで敵の攻撃は当たらなかった。
おい‥、この状況でうたた寝するなんてどーゆー神経してるんだ?
「いっくよ〜〜ッ」
大きくラケットを振りかぶるとスマッシュを放つ。
俺がダメージをある程度与えていたせいか、ミイラ共が次々に消滅してゆく。
「すげぇ‥‥」
あっけに取られていた俺だが、まだしぶとく残っているミイラに倒れた姿勢のまま引き金を引く。火薬によって放たれた鉛は敵の足首へと吸い込まれてゆく。
けたたましい悲鳴。ビンゴォ!!ここが弱点だったのかよ。
『敵影消滅しました』
H.A.N.Tからその言葉が聞こえると全身の力がイッキに抜けた‥‥‥。
「うえッ!?」
うたた寝から覚醒した皆守が俺の背中に腰掛ける。
「九龍‥‥‥」
「この大バカ野郎ッ!!」
怒号とともに脳天に衝撃がくる。
痛ッ‥‥
「何一人でテンパってんだよ!‥‥ったく、ふざけんなよ、ぁあ?」
‥‥いや、俺はお前達が傷付くのが嫌で‥‥。
俺はトレジャーハンター。
危ないことは百も承知で‥だけどお前達は普通の高校生だろ‥。
「そんなんで鎌治を助けられんのかよ?」
八千穂が駆け寄ってくる。
「ね、九龍クン。あたし達はその‥九龍クンみたいには戦えないけど‥少しでも九龍クンや鎌治クンの助けになりたいの」
「あたしにも手伝わせて‥ね?」
「あ‥‥あぁ‥‥‥‥」
俺はホンット馬鹿だな。
「ッ!?」
皆守から脱出すると2人を両手で抱き締める。
「ありがとな、おかげで目ぇ醒めたよ」
「俺ちっとばかし悲劇に酔ってたみたいだわ‥ダメだなぁ。俺一人じゃ心もとないよな‥だから力を貸してほしい。二人の身の安全は俺が絶ッ対に守るから」
「だから‥」
「正式にバディとして俺を助けてくれないか?」