+++黄龍ナマモノレンタル學園紀
「こんの‥バカッ!」 ポカリと小気味の良い音を立てて皆守を殴る尚ちゃん。 「痛ッて‥‥」 呻く皆守。やーい、たんこぶ出来てやんのー、ざまあみろ〜。 「思いっきりチョークぶちまけやがって、たっちゃんに何てことするんだよ!目に入ったら危ないだろうッ!!」 皆守は尚ちゃんに怒られてバツが悪そうに頭を掻いている。 「可哀相にすぐに綺麗にしてあげるからね」 優しく体についた粉を払うと、クルリと背を向け、何かを用意してくれている。 今の尚ちゃんは、さっきのヘンテコリンな状態変化の事よりも、俺の事を案じてくれているらしい。悔しそうな表情を浮かべる皆守に、妙な優越感をおぼえた。 「へへッ」 大人の威光を笠に着て調子に乗る子供のように、ペロペロッと皆守に向かって舌を出してからかってやった。 「‥‥テメッ」 怒った皆守が俺に踵落としをかまそうと大きく足を振りかぶるが、 「甲太郎ッ!」 不穏な気配を感じ取った尚ちゃんに気付かれ大人しくなる皆守。 みょほほ、なーんか気持ちいいみょ〜。
みょほみょほと優越感に浸っていると、 「たっちゃん、私の服じゃ小さいと思うんだけど‥少しだけ我慢してね」 先ほどから尚ちゃんは、俺の為の着替えを探してくれていたのだ。 「あ、そっか‥。俺のものはコッチの世界には無いんだったっけ‥‥」 突然、今まで居た『世界』という名の居場所を放り出された事実を再認識し、なんだか少し悲しくなる。 「だいじょうぶ」 にっこりと優しい笑顔。 「きっと元の世界に戻れるよ。私もできる限り協力するから」 ね、元気出して‥と、慰めてくれるコチラの世界の尚ちゃん。 コッチの尚ちゃんも、やっぱり可愛くて温かくって‥‥。 「うん!クヨクヨしたってしょーがない。元気だして頑張るみょーッ!!」 拳を振り上げファイト一発! 「それでこそたっちゃん」 パチパチ拍手して喜んでくれる尚ちゃん。 「おっしゃーッ!元気が出たところでまずは生活用品みょーッ!!」 尚ちゃんのIDを借りて、ロゼッタ教会のオンラインショップ『Shadow of Jade』にアクセス する。みょほほ。コッチにもちゃんとカメのお店があって嬉しくなる。 ペソペソと早速メール。
ニンジャタートル へ 突然コチラの世界に来ちゃって生活用品が無くて困ってるみょ〜。 大至急送ってみょー!! 緋勇 龍麻より
「ニンジャタートル」とは、大昔の映画に出て来たカメ忍者の事。《JADEショップ》のオーナー如月翡翠(キサラギ ヒスイ)を揶揄したものだが、これを以前本人に言ったら常人なら瞬殺ものの殺人手刀ツッコミをされたのだが、うっかりまた使ってしまった。
「‥‥‥ま、いいか。俺それくらいじゃ死なないし‥‥」 メールを送信してしまった後にちょっぴし後悔。 「ん?たっちゃん終わった??」 心配そうに様子をうかがう尚ちゃん。 「終わったー」 「そう?じゃ、コッチにおいで」 尚ちゃんに手招きされペミッと抱き着く。 途端に歪む皆守の顔が面白くて、尚ちゃんの胸元にスリスリと頬擦りする。 (柔らかくないみょ〜〜‥‥お胸〜〜) 不機嫌さをあらわにする皆守に追い討ち。 「それじゃ、私はたっちゃんとお風呂に入ってくるから、帰ってくるまでに掃除終わらせておいて」 「‥‥‥ッはぁああああ!?お前正気か!!」 「正気か‥‥って、そういう台詞が出る甲太郎こそ正気?」 「こんなのと一緒に風呂は入るってーのかッ!」 「それが?」 「それがって、お前なぁ〜ッ」 「みょ〜ッ!?尚ちゃん大胆みょ〜」 「‥‥たっちゃんまで。あのね‥、昔から一緒によく入ったでしょう」 こともなげに台詞を紡ぐ尚ちゃんに、俺の方が照れてしまった。 「そ‥そうだけど〜。あれはほら、小さかった頃だし〜〜」 いくら胸が小さいとはいえ、この年齢で一緒にお風呂にはいったらマズイだろう。 「‥‥‥‥‥‥あのね、もしかしてまだ私の事を女だと思ってる?」 「え?だって尚ちゃんは女の子でしょ〜」 幼い頃のフリフリドレス姿の尚ちゃんを思い出す。 「いや、だからね。あれは母さんの趣味であって‥‥。そりゃね、親戚連中まで女だと思ってるみたいなんだけど‥‥‥‥。私の性別は間違いなく『男』だからね」 「う‥‥‥嘘みょおおおおおおお!!」 突然の告白にショックを受ける俺。 「うわぁ〜〜〜んッ、嘘みょ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 尚ちゃんが男だなんて、とてもじゃないが信じられない。 「えッ、ちょっと‥‥たっちゃん!?」 ひょいっと尚ちゃんを担ぐとお風呂場まで猛ダッシュ!! 「おいッ、尚樹を‥‥ウッ!?」 追い掛けてこようとする皆守に、キックをお見舞い。 お前に尚ちゃんのお胸を見られてたまるもんかぁ〜〜〜ッ!
(inお風呂) 「おーい、たっちゃーん。いつまでショックうけてるの〜?早く湯舟に入らないと風邪引いちゃうよ」 「みょお‥‥。だって‥‥だって‥‥‥、」 尚ちゃんの股間に俺と『同じモノ』があったんだもん!! この事実にショックを受けないわけがないじゃないか〜〜。 呆然自失の状態で尚ちゃんに洗ってもらいながら、俺はずっと涙していた。 「みょ〜‥‥お胸〜〜〜」 「あはは。だから、それは無理だってば」 「みょ〜無理じゃないみょ〜〜‥‥‥ッて、ああッ!!」 そうだそうだ!! ここにも、この世界にも『不可能を可能にする男』がいたんだみょ。 みょ〜、あとでまたお願いしに行こうっと。 断るなんて絶対させない。 もし、断るなんて言ったら‥地下遺跡ぜーーんぶ破壊してやる!って脅してやる。 「のーぷろぶれむ!ブイッV」 勝利のポーズ。 「ん?なんだかわからないけれど、立ち直ったのならいいかな」
「ぷは〜、風呂上がりはこれに限るみょ」 自分で思いついた名案に満足しながら、勝利の美酒ならぬ風呂上がりのフルーツ牛乳に俺が酔いしれている頃‥‥‥。
(え、俺シカト?) 九龍の部屋を仕方なく掃除していた皆守だったが、突然の来訪者二人組に、ツッコミの鬼らしくなく心の中でのみツッコミをしていた。 二人とも顔は美形の部類にはいるのだが、色々な意味でただ者では無かった。 ひとりは気合いの入ったニンジャのコスプレ姿で、誰かを待っているのか部屋の中をウロウロウロウロ‥しかも、「病気はしてないだろうか?」とか「怪我なんてしてないだろうか?」と、お母さんチックな台詞を呟いている。 もうひとりのロングコートの方は、少し短かめの黒髪に憂いを帯びた表情の美青年なのだが、チクチクチクチクと何故か服を手縫いしていたりする。 この一種異様な光景に、 (ツッコミどころが多くて、もはやどこからツッコミしていいか分からねぇッ!!) さすがの皆守も圧倒されていた。
「みょ〜、いいお湯だったみょ〜」 勢いよく扉が開くと九龍とナマモノ緋勇が戻ってきた。
『龍麻!!』
「みょ!?」 思いもかけない懐かしい声の二重奏に俺はびっくりした。
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