+++黄龍ナマモノレンタル學園紀
「な‥何、今の‥‥??」 突然の出来事に頭の中が白くなる。 呆然と佇む俺達だったけど、いとこの尚ちゃんが悪の帝王皆守から脱出すると、頭押さえながらゴソゴソ動き出した。 綺麗な飾り棚から何かを取り出すと‥‥、 「‥‥‥‥。たっちゃん‥、コレ‥」 尚ちゃんから差し出されたソレは、俺の大好きなお菓子だった。 「みょ〜〜〜ッ」 嬉しさの余り、つい小さくナマモノ化して飛びついた‥‥がッ!! 「みょッ!?」 お菓子の直前で、足をガシッとつかまれると、あっと言う間に尚ちゃんに逆さ吊りにされてしまった。ふえ〜〜ん、俺がいったい何したみょ〜〜ッ!! 俺の心の叫びも空しく、尚ちゃんは優雅に微笑んでいた。 ‥‥‥あの笑顔は要注意。尚ちゃんが怒ってる時だ。 「ふえ〜〜ん」 仕方なく、みの虫(今は逆さまだけど)みたいにプラーンプラーン揺れてみる。 「お‥、おい。尚樹、この地球外生命体は何なんだ?」 いままで呆然としていた皆守が、俺を蹴り蹴りしながら尚ちゃんにたずねている。 くそう、あとで思いっきりかじってやる。 「さぁ?私のいとこ、緋勇 龍麻(ヒユウ タツマ)に見えるんだけどね。けど現在は、友人に拉致られて中国で修行中と聞いていたのだけど‥何故ここに?しかも、さっき彼は‥‥」 一旦言葉を区切ると、毒を含んだ眼差しでチラリと皆守を見た。 「『バカアロマ』って言ったよねぇ。それってまさしく‥‥」 「俺の事だと言いたいのか?え、尚樹?」 半眼が更に細くなる皆守に、挑戦的な眼差しの尚ちゃん。 さっきのヘッドロック‥‥根に持ってるな、尚ちゃん。 「それ以外にないだろう。甲太郎。それをどうしていとこ殿が知っているんだ?」 「フン、俺こそ知りたいね」 「それともあれかな。甲太郎のアロマ中毒は国外にも伝わっているのかなぁ。すごいねぇ」 「いやいや、尚樹にはかなわないさ。すごいなぁ、こんな地球外生命体と親戚だなんてなぁ」 険悪な雰囲気にたまらず唸ってしまう。 「みょ〜〜〜‥‥」 スッと視線を俺に移すと、極上の微笑みを投げかけられる。 「さあ、話してもらおうか。たっちゃん」 ふええええ〜〜〜〜ん。
「‥‥んでね、くーちゃんの部屋だと思って入ったら尚ちゃんがいてね」 俺は一生懸命に説明した。 今までくーちゃんと一緒に天香學園で楽しく生活していたというのに、皆守に『何か』をされたと思ったら尚ちゃんがいて‥‥。 「はァ?尚樹と同姓同名の人物がいて、しかも今まで天香學園にいたってのかッ」 煩いなァ。本当のことだもん。しかも、お前が何かしたんじゃないか。 フツフツと怒りが爆発寸前のマグマみたいに沸き上がってきたが‥‥あれ? 本名教えるくらい仲がいいの‥かな? 大好きな、くーちゃんと同じ名前。『葉佩 九龍(ハバキ クロウ)』という名前は、尚ちゃんの本名でもあるんだけど、ワケあって普通は教えない筈なんだよな。 「ふぅん。信じがたいけど、嘘を言っているようにも見えないね」 「‥‥ッたく。まるでパラレルワールドだな」 『ぱられるわーるど』‥‥かぁ。 うん、そーいわれてみるとそうかもしれないという気がしてきた。 たまには良い事いうじゃ無いか皆守。 「ふむ‥、となると私の知っているたっちゃんは‥‥?」 尚ちゃんはパソコンを起動させると何やらアクセスし始めた。 カタカタカタカタ‥流れるようにキーボードの上を、綺麗な指が踊る。 「みょ?」 しばらくすると、どこか見覚えのある人物が画面に現れる。 「たっちゃん‥‥‥」 ッて、俺じゃん!! 驚いたのなんのって、皆守なんてアロマパイプをポロッ‥と口から落っことした。 何食わぬ顔で、他愛のない話をする尚ちゃんと‥画面の向こうの俺。 『ねェ、尚ちゃん。今って、身長どれくらいあるの?』 今まで普通に話していた尚ちゃんの顔が、ほんの少しだけ引きつった。 「‥うーん、確か174cmかな?」 『やったぁ〜。俺の方が4cmも高い〜♪』 「‥‥へぇ、身長追いこされちゃったな‥‥」 あ、なんだか、でじゃびゅ(既視感)。 「え、えっと‥‥どうかしたかな。たっちゃん?」 突然黙ってしまった画面の中の俺へ、どこかぎこちない台詞を投げかける。
「ん〜‥‥、どうしてお胸ないの?」
《ゴッ!!》 尚ちゃんと皆守が同時に頭をぶつけた。 みょ〜、大丈夫かみょ〜〜ッ。尚ちゃん以外とリアクションいいみょ〜。 皆守はどーでもいいけど、なんで顔が赤いの?
「やっぱり‥‥、たっちゃんだ‥‥‥‥」 呻くように、尚ちゃんが言葉を絞り出した。
「ま、そんなワケで結論。パラレル設定という事でいいなッ」 どこか投げやりな感じで皆守が結論付けた。 しばらく絶句していたふたりだったが、どうやら立ち直ったみたいだった。 かわりに今度は俺が悩む番だった。 ふええ、自分がこの世にふたりもいるってなんか変な感じだ。 「ん、ああ。そうだね、そういう事もあるのかな。この天香學園ならありえる‥か」 「さっきのH.A.N.Tの変な台詞。それと関係あるのか?」 「『お題【頭痛】を達成しました』だなんて‥。それに、遺跡でクエストをクリアした時みたいな金色の光まで‥‥。たっちゃんが来るまでは、そんな事はいままで無かったから‥、きっと関係はあると思うんだけど」 うーん、と唸るふたり。 「‥‥‥ふう。色々推測したところで判断材料が少ないね」 「そうだな。んで、とりあえずこの物体はどうするんだ?」 逆さに吊るされたままの俺を、またも皆守が蹴ろうとしたので‥‥、 「あッ、あぶないッ」 尚ちゃんは警告するが既に遅い。 俺はガブリと思いっきり皆守のすねにかじりついてやった。 お前の反射神経はすごいけど俺にはかなわないよーだ。 「痛ええええええッ!!」 絶叫する皆守。急いで俺をひっぺがそうとするけど、絶対に放してなんてやるもんか。 へへん、ざまあみろ。 「ひいッ!?たっちゃ〜んッ、甲太郎かじっても美味しくないよッ」 「ふごふごもふもふもふ(訳:美味しいわけないけど面白いもんッ)」 「ざッけんなッ!地球外生命体ッ!!」 本気で痛がる皆守がとっても楽しい。 「もふ?(訳:あれ?)」 ふわりと甘い匂いが漂ってきた。 顔をあげると、視線の先にとっても美味しそうなチョコケーキ。 名前はムツかしかったけど、昔、あんまりにも美味しいケーキだったから作り方を盗む為に、娘を嫁がせようとする程だったっていういわくを、くーちゃんから教えてもらったっけ。 「ほら、たっちゃん。リカちゃんと共同製作したザッハトルテだよ。たっちゃん、チョコ好きだったでしょう?」 「食べるみょ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」 さっきまでの意気込みなんてゴミ箱にポイ。あっさりと皆守から離れる。
「美味しいみょ〜〜ッ」 パクリとふた口で1ホール(30cmくらいかな)を平らげた俺は、とおっても満足だった。 「な‥‥殴らせろッ!!」 「やめろーッ!!たっちゃんはお前がかなうような相手じゃないんだってばーッ!!」
ふみ〜、お腹もいっぱいになったし眠くなってきたみょ〜。 今夜はここで寝るとしても学校はどうしようかなぁ。 あ。 ふと、ある事に気がついた俺はさっそく行動に出た。 「ちょっと行ってくるみょ〜〜ッ!」 ブチッと、今まで吊るされていたロープを引きちぎると俺は『ある場所』に向かって走り出す。もちろん小さいまんまで。 「ど‥‥どこへッ!!」
「あーーもーーーんッ!!」 ここが天香ならきっと阿門がいるはず。 この場所で絶対的な権力を持つ阿門ならきっとなんとかしてくれるハズ。 見覚えのある、おっきな屋敷に突撃する。 「阿門−−−−−ッ!!!」 もう一度叫ぶと、阿門にしがみつく。 「あのね〜、俺がね、俺でね、俺がここに居るから、俺でねッ!!」 俺はここまでに至る経緯を、顔が涙でぐしゃぐしゃになるまで一生懸命に説明する。 「わッ‥、わかった。お前は、九龍 尚樹の親戚で、緋勇 龍麻というのだな。私はお前の編入手続きをすればいいのだなッ!?」 「わーい、さっすが阿門〜。話が早いみょ〜〜」 この世界の俺とは初対面なハズなんだけど、阿門ならわかってくれると思ったんだ。 「あーりがとね〜〜〜〜ッ!!」 さっそく目的を達成できた俺は、意気揚々と尚ちゃんの部屋に戻った。
―――緋勇が去った後の阿門邸での会話。 「おや、あの小さいお方はもう行ってしまわれたのですね」 「ん‥‥、ああ」 「残念でしたね。ぼっちゃま好みの可愛い方でしたのに‥‥」 嵐のような来訪者が、現れたのと同じくらいの勢いで消えてしまいちょっぴし寂しそうな阿門。 実は、可愛いもの好きだった。
―――そして、その頃九龍の部屋では‥‥‥、 「ちょッ‥と‥、やめッ‥‥甲‥」 かすかな吐息と共に紡がれる、甘く切ない否定。 聞く者を惑わし昂らせるその響きに煽られて、指先の動きが早くなる。 言葉ではかなわず、行動で相手を否定しようと試みる。 けれど、後ろから羽交い締めされ、しっかりと固定された線の細いしなやかな肢体は、不馴れな刺激によって上手く動かせないでいた。 何かを確かめるかのように這う皆守の利き手が、上から下へと降ろされる。 「‥‥や‥‥め‥」 か細いながらも抵抗を試みる声が、相手の支配欲を増長させる。 手にかけた九龍の上着から、中への侵入を始めようとしたその瞬間‥‥
「不純異性交友禁止−−−−−−−−−ッ!!!!!」 阿門邸から戻ったミニ緋勇のキックが、見事なまでに皆守に炸裂した。 うん、尚ちゃんの操は俺が守らなきゃ。 「こんのッ、エロアロマッ!!私が女なワケないだろうッ。今まで何度も一緒に風呂入って裸見てるんだから、今さら確かめることもないだろうに。更に言うなら、私は性転換もしてないしアンドロギュヌス(両性具有)でもないからなッ!!」 やーい、怒られてやんの皆守。 「あーもう、出てけ!セクハラ魔人ッ!!」 ぐいぐいと皆守を押し出す尚ちゃんのお手伝い。 「あッ、テメェまで何しやがるッ」 「へへーん、俺は尚ちゃんの部屋で寝るんだもーん」 優越感に浸っているところだったが、 「みぎゃ!?」 「おっと、悪ィ。手が滑ったぜ」 悪びれもせずに、尚ちゃんの部屋にあったチョークの箱を上から思いっきり頭に投げつけられ、俺の頭は真っ白けっけになってしまった。 びええ〜〜ん、何すんだよ−−−ッ!! 俺が抗議しようとすると、またあの金色の光が‥‥
『お題【粉状態】を達成しました』
またしても、尚ちゃんのH.A.N.Tからありえない音声が流れたのだった。 |