+++黄龍ナマモノレンタル學園紀

【頭痛】再会?でもなんか違うんだよなァ 

 

 

 

「ん―――?」

 グラグラする頭を押さえながら、自分の身に起こった出来事を思い出す。記憶と言

う名の広大な海に網を投げ、ズリズリズリズリと手繰りよせる。

 確か、大好きなくーちゃんの部屋に向かったのに、大嫌いなアロマ星人がドアの前

に立ちふさがってて、邪魔だったから喧嘩売りつけたのに全然無反応で―――、

『何か』をされたんだけどまったく思い出せない。俺は何をされたんだろう?

 何か‥何か‥‥‥。何だろう、全然分からない。

 けれど自分の中の細胞レベルで『ここは違う!』と叫んでいる気がする。

 ここ‥って、何がどう違うのかは分からないんだけどね。

「ま、いっか」

 分からない事は考えても仕方ないし。今は、皆守がいないからくーちゃんの部屋に

入るチャンス。後で考えよっと。

「くーちゃーーんッ♪」

 

 勢いよく扉を開けると、ふわりと紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。とても良い香りだ

ど、いつもくーちゃんは中国茶を飲んでた筈。今日は珍しいと思った。

 けれど珍しいと思ったのはそれだけじゃなく、部屋の中がなんだか騒がしかった。

音がうるさいっていうんじゃなくて、なんか統一感の無い色々なものが雑然と置かれ

ている。キレイに磨かれたカレー鍋とかツタンカーメンみたいなのとか。

「あれれ?」

 九ーちゃんの部屋はとってもシンプルだったと思うんだけど、何時の間にお部屋の

模様替えしたんだろう?部屋をきょときょと見回していると声をかけられた。

「君は?」

 声の主は、別段驚いた様子などは微塵も無く、優雅に微笑んでいる。その綺麗な人

の顔は何処かで見た事があるような‥‥ひどく懐かしい気がした。誰だろう?

 相手とお互いしばらく見つめ合う。先に口を開いたのは相手の方だった。

「まさか‥‥‥‥たっちゃん?」

 たっちゃん?俺の事をそう呼ぶ人物は少ない。

「あ‥‥‥ッ」

 脳裏に浮かぶ幼い頃の記憶。

「尚ちゃんッ!!!」

 ひとつ年上の笑顔が可愛いらしいイトコ殿。

 驚いたのなんのって、くーちゃんの部屋に入ったつもりだったのに、イトコの尚ちゃ

んがいたんだから。

『どうしてここに?』

 二人の声が見事にハモる。

 

 

「尚ちゃ〜〜んッ!!」

 ひさしぶりの再会に嬉しくて抱き着いた。ちょっぴり勢いが強かったので、華奢な

尚ちゃんは俺を支えきれず、ベッドに一緒になって倒れた。

 

 

「ねェ、尚ちゃん。今って、身長どれくらいあるの?」

「うーん、確か174cmかな?」

「やったぁ〜。俺の方が4cmも高い〜♪」

「へぇ〜、身長追いこされちゃったな」

 へへへ‥。もう少し大きくなればこうやって、しーちゃも押し倒せるんだよなッ。

 もうちょっとだ自分!!

 

 あれ?

 ふと、イトコ殿の違和感に気がつく。

「ん〜‥‥、どうしてお胸ないの?」

 

 ゴッて、丁度良い具合に落ちていた目覚まし時計に、尚ちゃんは後頭部をぶつけた。

 ん〜?

 今の尚ちゃんは、初めてみるジーンズ姿。

(なんたって記憶の中の尚ちゃんは、いっつもフリフリドレスだったし〜)

 黒い細身のジーンズに、大きめの白いセーター。

 いくら大きめのセーターだからって、胸のふくらみが全然ないのはおかしかった。

「ね〜ね〜、お胸は〜〜?」

「ちょッ!?た‥‥たっちゃん!!」

 ジタバタと暴れる尚ちゃんにかまわず、上着に手を掛けセーターをめくり上げる。

 見る人が見たらちょっぴしアブない体位だったかもしれない。

 でも、尚ちゃんに『お胸』が無い事に納得できない俺は構わず続けた。

 昔でさえ十分スタイルが良かったんだから‥‥。尚ちゃんは大きくなったら絶対

お胸おっきいと予想してたんだもんッ。(スタイル良=お胸おっきいという法則)

 

 

「おい、尚‥‥‥‥‥」

 

 何処かで聴いた事のある声の人物が、ノック無しで入って来たと思ったら‥

 

「ッて!?何やってんだテメェラ!!!!!」

 

 ドカッというニブい音と共に、尚ちゃんの悲鳴が上がる。

「痛ッたーーーッ!!」

 

 勢いよく入ってきたバカアロマに殴られる尚ちゃん。

 一瞬、どめすてぃっくばいおれんすという単語が脳裏をよぎる。

 

「痛い痛い痛いッ!!!!」

 涙目の尚ちゃんの頭をガシッと掴むとヘッドロックをかます皆守。

 いつもなら俺に食ってかかってくるはずなのに‥‥。

 それになんだかいつもの、ブラックなオーラを漂わせる皆守とは

どこか違っていて、尚ちゃんを助けるのが遅くなってしまった。

 

「ぎゃーッ!尚ちゃんに何すんだようッ!!バカアロマァア!!」

 思いっきり殴ろうとした瞬間‥‥‥、

 

 金色の光。

 まるで遺跡でクエストを達成した時のようにまばゆい光に包まれる。

 

『え‥‥‥?』

 

 今度は3人で声がハモっちゃったよ。

 

『お題【頭痛】を達成しました』

 

 なんだかとっても間の抜けた内容を、H.A.N.Tはいつも通り冷静に告げた。 

 

『な‥‥なんだっててぇ〜〜ッ!?』




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