+++1st. Discovery「謎の転校生」

 

1章 <そしてまた陽は昇る>

 

 

  記念すべき初仕事の場所―――《ヘラクレイオン遺跡》の在るエジプトを後に、

《ロゼッタ教会》のセスナ機はインド洋上空を飛んでいる。

 

 記念すべき初仕事の報告を、7つ歳の離れた弟に報告するためH.A.N.Tを起動させる。

 最近は、父と組んで何処かの遺跡を探索中だと聞いていたが‥‥元気だろうか?

 灰色が掛かった明るい茶色の髪を、埃だらけにしながらイタズラッ子のような笑みを浮かべている姿が思い浮かぶ。

 少々事情があり、幼い頃から家族とは離れ大物トレジャーハンターに育てられた弟は、既に立派な《宝探し屋》だ。

 俺の場合は母方の『表稼業』を手伝いながらだったので、《宝探し屋》としては若干出遅れた形になった。

 ウチでは父さんが発見した古代の技術や《秘宝》を、母さん方の会社で研究しては、こっそりと利用して莫大な利益を生んでいる。

 まぁ、《宝探し屋》というのもなかなかお金がかかるのだ。

 基本的に《教会》に属していれば、高価な探索機具や知識提供を受けることができるのだが―――。誰よりも早く、誰よりも安全に《宝》を探す為には、独自に研究機関を抱えている為、莫大な運営資金が必要になる。

 俺はまだ駆け出しなので、依頼を受けてしか探索をするしかないのだが―――、この立場というのは実は非常に危うい。

 組織の中で活動していれば、応援を頼む事も出来て非常に心強いはずなのだが、多くの人間が関わる組織というものは情報管理を徹底していても、所詮は人が管理しているものなので、大事な情報が漏れてしまう事がある。

 何処の業界にも、獲物を横からかっさらっていくハイエナはいるが、この《宝探し屋》という業界には、あの《秘宝の夜明け/レリック・ドーン》のように悪質な輩が多い。

そのため、宝探しは必要最低限の信頼できる人間だけでやった方が安全なのだ。

 

 俺の憧れるトレジャーハンターは、高校生でありながら既に世界トップクラスの《宝探し屋》にして、世界有数の資産家だ。彼も、自分で発見した古代のオーバーテクノロジーをお抱えの研究機関で解析、現代に技術応用し、そして得た莫大な資金を有効に使って、探索に役立つ最新鋭の装備を創り出してはガンガン探索をしているのだ。

 《宝探し屋》として天賦の才を持った彼は、両親を亡くしている為、現在自分一人で会社経営や技術開発など上手く指示し、運営しているのだ。

 凄腕の彼だが、高校生としての生活もエンジョイしているというのだから驚きだ。

 俺も彼のように《宝探し屋》と表稼業を両立させたいと思う。

 

 早速、初仕事の首尾についてメールを打っていると、嫌な思い出がフラッシュバック。

 非常にムカついてきたので、切々と語ってしまった。

 

《レリック・ドーン》は俺が生涯を通して撲滅してみせるッ。

 

 殺伐とした決意を心の中で燻らせていると、早速弟からの返信が送られててきた。

 どうやら弟の方は順調に探索が進んでいるようだった。

 まァ‥、今日は親父と死にかけたようだが――、無事だったからこそ笑い話にできる。

 

 

2004年9月21日午前1時――。

 学生寮へは深夜についた。

 とりあえず、すぐに必要なものだけ荷ほどきしていく。

 荷の中で、四角い箱に収められた学生服を取り出し試着してみる。

 初めて袖を通す学生服は、とても目新しいものだった。

 全身が映る縦長の姿見の前でくるりと回転する。

 

 どこか変ではないだろうか?

 蛍光灯の光が当たった部分の黒髪が蒼く見える。鏡の中の人物は、神妙な面持ちで少し長めの前髪を掻き上げ、溜め息をひとつついた。

 自分を客観的に見て現実逃避をしても仕方がない‥‥か。

 今回の仕事は、東京都新宿区にある全寮制の『天香<カミヨシ>学園高等学校』の敷地内に存在を確認された、超古代文明遺跡の調査。

 その為に、本当に本当に本当にッ天香学園に編入するという事実は変わらない。 

 夢なら早く醒めてくれ。

 いくらなんでも仕事とはいえ、25歳という年齢で高校生しなきゃいけないと思うとやっぱり気が重くなってくる。たしかに実年齢よりも若く見られるのだが‥‥‥、教育実習生という設定では駄目だったのだろうか。

 この嫌がらせとしか思えない設定には、何か意図的なものを感じずにはいられない。 

 ‥‥まぁ、考え過ぎだろうが。

 ふぅ‥‥。

 今後の生活を考えると、ついあれこれと心配になってくる。

 とりあえず日常会話――、日本語に関しては問題ない。父も母も日本人だし、ほとんど海外にいたとはいえ、日本人スタッフに囲まれて生活していたので基本会話は日本語だったからだ。

 会話はよし‥と、ただ会話の中身は同世代ではないので心配になる。普通の高校生とはいったいどんな会話をしているのだろう。

 自分の18歳当時を振り返るが、同世代の人間とのつき合いは皆無であったし―――、

 本当の学生時代は跳び級<スキップ>制度を活用していたし、帰ったら帰ったで訓練やら勉強やら着せ替え人形にして遊ば‥‥いや、それはいいとして、とにかく年上の人たちに囲まれて生活していたのだ。

 加えて、学生生活を満喫したことのない自分にとって、ここはまさに未知の世界だった。

 上手く溶け込めるだろうか。しばし考え込む。

 ‥‥‥。

 ‥‥‥‥‥。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥ま、いっか。

 色々考えたって仕方がない。

 下手に演技してボロがでるよりも自然体の方がいいさ。

 

 

 無理せず適当にやろう。

 




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